ASEAN接近を図る米国へのまなざし
歓迎から警戒、各々の立場から論じるアジアの社説を読む

  • 2022/6/13

 米国と東南アジア諸国連合(ASEAN)は5月13日、ワシントンで特別首脳会議を開き、両者の関係を「包括的戦略パートナーシップ」として強化することなどを盛り込んだ共同声明を発表した。ロシアのウクライナ侵攻をめぐり、世界がロシアへの対応を軸に「色分け」されつつあるなか、米国は、加盟10カ国がおのおのの立場を持つASEANの取り込みに苦心している。米ASEAN首脳会議を中心に、アジア各国の「米国へのまなざし」を見た。

(c) CHUTTERSNAP / Unsplash

シンガポール「自らが運転席に」

 「歓迎ムードの中、バイデン米大統領は、ASEANと米国の関係が新時代に入ることを約束した」と、バイデン政権のASEAN接近を前向きにとらえるのは、シンガポールの英字紙ストレーツ・タイムズだ。5月16日付の社説で論じた。

 「バイデン政権は、トランプ政権時代には空席のままだったASEAN諸国のいくつかの大使も任命した。これは、ワシントンが欧州における戦争で手いっぱいで、地政学的に対中国の要となる東南アジアを無視しているわけではない、ということの証だ」

 また同紙は、米国がASEANにとって最大の外国直接投資国だと指摘する。その額は、2019年には3180億ドル(約42兆4906億4671万円)に上っており、中国の1100億ドル(約14兆6980億2244万円)を大きく上回る。また米国は、製造業の中国依存を断ち切るために、ASEANを中心としたサプライチェーンを築こうとしているという。

 その一方で、中国とASEANの間の貿易額は2020年で6850億ドル(約91兆5285億9433万円)に上り、逆に米国の3620億ドル(約48兆3698億5569万円)を大きく上回っている。その規模は、過去13年間、変わらないという。

 「一見すると、ASEANにとって最も影響力がある大国は中国であるように思われる。しかし、多くのASEAN諸国は、中国の影響力とバランスをとるためにも、米国により深く関与してほしいと考えている。問題は、米国がどのようにこの地域に影響をもたらすか、ということだ。米国は、民主主義と権威主義という軸を主張するが、これは、統治形態がさまざまなASEAN諸国には響かない。中国は、世界の安全保障を牽引したいという意欲を示しているが、どう牽引するかはいまだ見えてこない」

 ASEAN諸国は、しばしば「自らが運転席に座る」という表現を使う。ストレーツ・タイムズ紙の社説もまた、この表現を用い、「米中の綱引きの中で自らのポジションを奪われるべきではない」と、呼びかけている。

中立を訴えるタイ

 タイの英字紙バンコクポストも、5月16日付の社説で米ASEAN特別首脳会議について取り上げた。バンコクポストの場合は、今回の共同声明に盛り込まれた「包括的戦略パートナーシップ」を、ASEANにとっての「新たな課題」だと位置付ける。

 「米中が競い合い、対立する中で、ASEANは中立でいなければならない。そして、この二つの超大国の関係は、どちらに偏ることもなく、均衡を保たなければはならない。ASEAN地域にとって必要で、しかも、米国かの利にも中国の利にもなるという立場を貫くことが、最も大きなチャレンジになるだろう」

 シンガポールが米国の関与を歓迎する論調であるのに比べれば、タイの社説は、やや、米国の姿勢に慎重で、中国とのバランスを強調している。タイが長く米国の同盟国であることを考えると不思議だが、タイは地理的に米中対立の「最前線」に置かれることが影響しているのかもしれない。

中国に強硬姿勢のフィリピン

 フィリピンの英字紙デイリー・インクワイアラーは、5月31日付の社説で、フィリピンの対米関係について触れたた。米ASEAN特別首脳会議をめぐる社説ではないが、5月9日の大統領選で当選したフェルディナンド・マルコス次期大統領が、「フィリピンの領土を他国が踏みにじることは一平方ミリたりとも許さない」と発言したことを引用している。

 フィリピンでは、現在のドゥテルテ大統領が就任当初から親中姿勢を見せていた。中国との間でスプラトリー諸島での領土問題を抱えるフィリピン国内では、ドゥテルテ政権の対中政策に不満を持つ声も強く、マルコス新大統領がドゥテルテ政権の外交政策を維持するかどうか、注目されていた。

 社説によれば、マルコス次期大統領は中国に対し、「領土問題では一歩も譲らない」という強硬姿勢を見せており、同時に冷え込んでいた米国との関係も改善する意向を示した。

 米ASEAN特別首脳会議が、ロシアのウクライナ侵攻が続く中で開かれたということも、各国の対米姿勢を見直す機会になっただろう。対米関係について考える各国の社説は、国際関係の秩序は、今、激動のさなかにあることを映し出している。

 

(原文)

シンガポール: https://www.straitstimes.com/opinion/st-editorial/the-straits-times-says-bidens-encouraging-signals-to-asean

タイ: https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/2310522/high-stakes-for-asean

フィリピン:https://opinion.inquirer.net/153455/a-firm-voice-to-china

関連記事

 

ランキング

  1.  2026年8月、ネパール中部を大規模な土石流が襲いました。ヒマラヤでは気候変動に伴う氷河の融解…
  2.  2026年8月26日、中国とネパールの国境地帯を大規模な氷河土石流が襲いました。気候変動による…
  3.  第2次トランプ政権の発足後、アメリカは国際開発庁(USAID)を廃止し、対外援助を大幅に削減し…
  4.  ミャンマー西部ラカイン州に多く暮らす少数派イスラム教徒ロヒンギャ。長年にわたり市民権を認められ…

ピックアップ記事

  1.  2017年8月25日、ミャンマー西部ラカイン州でロヒンギャの武装勢力が国境警察施設を襲撃したことを…
  2.  2016年7月1日にバングラデシュの首都ダッカで発生したホーリー・アーティザン・ベーカリー襲撃テロ…
  3.  2016年7月1日夜、バングラデシュの首都ダッカで、日本人7人を含む多くの命が奪われたホーリー…
  4.   ミャンマーの街角や人々の暮らしを伝える「Yangonかるた」と、その発想に触発されて誕生した…
  5.  30年前、内戦直後のカンボジアで、戦火をくぐり抜けて残った数本の在来種の胡椒の木を大切に育てる老農…
ページ上部へ戻る