プラスチック汚染に国際条約で立ち向かえ
待ったなしの環境危機に急がれる法整備

  • 2023/7/25

 「プラスチック汚染」が地球環境における重要課題になってから、かなりの歳月が過ぎた。数々の国際的なキャンペーンが繰り広げられてきたが、課題は解決されていない。その一方で、深刻化する現状に立ち向かうべく、国際条約をつくる動きが本格化している。

(c) Brian Yurasits / Unsplash/

増え続けるプラゴミ問題に無策のバングラ政府
 バングラデシュの英字紙デイリースターは、世界環境デーの6月5日、「プラスチック禁止への無策が環境を破壊する」と題した社説を掲載した。
 社説は、「プラスチック汚染が環境にもたらす重大な危険性について繰り返し警告されているにもかかわらず、バングラデシュ政府は惨めにもその対策に失敗している。これは容認できることではない」と、政府を手厳しく非難した。というのも、バングラデシュ高等法院は2021年までに使い捨てプラスチック製品を禁止するよう政府に命じたが、事態はまったく変わっていないのだという。
 社説によると、2005年から2021年の6年間で、バングラデシュでは1人あたりのプラスチック使用量が3キロから9キロと、3倍に増加した。首都ダッカに限定すると、その量は24キロに上る。しかし、2021年の世界銀行の調査では、バングラデシュでのプラスチック製品のリサイクル率は31%にとどまっており、69%は回収されずに廃棄されているという。しかも、そのほとんどが排水溝や下水管などに捨てられ、都市部の排水問題の主因にもなっているのだ。
 社説は、こう警鐘を鳴らす。「『汚染税』のような、プラスチック汚染を抑制するための厳格な法律がなければ、プラスチックは私たちの環境を破壊し続けるだろう。政府には、この脅威を真剣に受け止め、リサイクルはもちろん、ジュートなどより健全な代替品の使用を促す取り組みを強化するよう求める」。

170カ国以上が連帯協定を策定へ

 シンガポールの英字紙ストレーツ・タイムズは、6月5日付で「国際プラスチック条約を結ぶ時がきた」と題した社説を掲載した。
社説は、「今年の世界環境デーのテーマである『プラスチック汚染に打ち勝とう』を実現するためには、国境を超えた外交的解決が急務だ」と説く。
 これに向けた動きは、すでに始まっている。5月末にはシンガポールを含む170カ国以上がパリに集まり、2024年までにプラスチック汚染について法的拘束力のある協定を策定する方向性を確認した。さらに、11月にケニアで開かれる次回の交渉に先立ち、条約文の初稿を作成することでも合意したという。
 社説によれば、条約は最終的にプラスチックの持続的な生産と消費を促進するものになるの見方を示し、次のように訴える。
 「国際条約の目的は、プラスチックを悪者にすることではない。食品衛生から医療、そして航空宇宙分野まで、プラスチックには多くの価値ある使い道があるからだ。ただプラスチックを悪者にするのではなく、使い捨てプラスチックを回収し、再利用する取り組みの規模を劇的に拡大していかなければならない」
 さらに社説は、データを引用してプラスチック問題に取り組む必要性を強調する。世界では現在、毎分100万本のペットボトルが購入され、毎年5兆枚のビニール袋が使用されているが、現在のペースで使用と廃棄を続ければ、世界のプラスチック消費量は、2060年には2019年の約3倍にまで膨れ上がる見込みだという。他方、世界で2019年にリサイクルされたプラスチック廃棄物はわずか9%にとどまっており、約20%は焼却され、約50%は埋め立てられた。
 社説は、「条約交渉は、深刻化する危機の解決に向けた前向きな一歩だ。交渉は厳しいものになるだろうが、合意にいたることは可能だ」として、国際条約の締結に強い期待を示している。

 

(原文)
バングラデシュ:
https://www.thedailystar.net/opinion/editorial/news/inaction-plastic-ban-killing-our-environment-3338346

シンガポール:
https://www.straitstimes.com/opinion/st-editorial/time-for-a-global-plastics-treaty

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