ウクライナからの穀物輸出が再開
国連とトルコの仲介で
- 2022/8/2
ウクライナとロシアは7月22日、国連とトルコの仲介で、黒海を通じたウクライナからの穀物輸出再開に合意した。穀物の主要産出国であるウクライナだが、2月のロシアによるウクライナ侵攻で黒海が封鎖され、穀物を輸出できずにいる。すでに世界各地で食料を中心に値上がりが続き、このままでは食料不足に陥りかねないとして、国連とトルコが仲介に乗り出した。
英BBCなどによると、四者の主な合意内容は、①穀物などを載せた貨物船が航行している間、ロシアはウクライナの港を攻撃しないこと、②機雷敷設水域では、ウクライナの艦艇が貨物船を誘導すること、③武器などの密輸に対するロシアの懸念に対応するため、トルコが国連とともに貨物船を検査すること、④黒海からはロシア産穀物や肥料の輸出も可能とすること、の4点である。これらは120日間有効で、一連の行動はトルコのイスタンブールにある調整センターで、四者同席のもとで監視される。
「欧州のバスケット」と呼ばれていた時代
四者の合意について、シンガポールの英字紙ストレーツタイムズは7月26日付の社説で、「すべての人々に歓迎される内容だ」と称賛した。
さらに、「このまま穀物輸出ができなければ、世界45カ国、5000万人が飢餓に直面すると言われる」と指摘した上で、「ウクライナは欧州のバスケットとも言われ、小麦やトウモロコシ、ヒマワリ油などは、欧州以外に加えてアフリカや中東にも輸出されていた」と述べ、事態の深刻さに触れた。
同紙は、ウクライナ、ロシア、トルコ、国連の四者がイスタンブールの調整センターで合同監視する体制にも言及。「国連のグテレス事務総長は、4月にロシアのプーチン大統領とウクライナのゼレンスキー大統領との交渉を開始し、数カ月にわたる協議をトルコのエルドアン大統領とともに結実させた。こうした合意は、国連とトルコの外交努力のたまものであり、称賛に価する」と、評価した。
特に国連にとっては、民間人を避難させるためのマリウポリの人道回廊設置とともに、「国連の役割」が疑問視されている中での「勝利」だという。
さらに、合意の翌日にあたる7月23日にロシア軍が黒海の貿易拠点オデーサ港を攻撃し、「合意を踏みにじるもの」として非難の声が上がっていることについては、「このようなつまずきはこれからもあるだろうが、前進し続けなければならない」と、述べた。
食料品価格の上昇を抑えられるか
インドの英字メディア、タイムズオブインディアは7月24日付の社説で、「希望の穀物? ウクライナとロシアの穀物輸出再開合意は複雑だが、世界的な食料価格上昇を抑えるためには最適な方法だ」と、評価した。
社説は、今回の四者による合意について、「ロシアの侵攻が始まってから最初の重要な外交的解決策だ」と評価している。同紙も、ストレーツタイムズ同様、世界の多くの人々が飢餓に直面していると指摘した上で、「穀物輸出の再開が、国際的な危機的状況を救うことにつながるかもしれない」との見方を示した。
その一方で、同紙はいくつかの懸念も指摘する。一つは、ウクライナの港から輸出するプロセスだ。前述のように、穀物を黒海の外に出すためには、貨物船の検査や機雷を避けるための措置を含め、さまざまなプロセスがある。同紙は、「時間がかかる上、価格も完全にこれまで通りに戻るというわけにはいかないだろう」との見方を示す。また、戦闘の近況ではロシア軍が勢力を拡大しており、「こうした戦況の変化が合意内容に影響を与えるかもしれない」と、指摘した。
インドは、今回の穀物不足に直面した際、国内への安定供給を確保するために自国産の小麦の輸出を禁止した。しかし、インドでも輸入が必要な作物はあり、品不足や価格上昇の影響からは免れない。「今回の合意は、世界的な食料品価格の抑制に寄与するよう運用されなければならない。インドは、それを願っている」
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社説が出た後、8月1日には穀物を積んだ最初の船がオデーサから出港したが、ウクライナ南部へのロシアの攻撃は今も続いており、今後も輸出されるかどうかは不透明だ。
世界的な食料不足、エネルギー不足への懸念、あるいは物価上昇は、各地で深刻な状況をもたらしている。外交的、政治的な合意がゴールではない。その確実な運用こそが、本当の意味でのゴールだ。直接関係した四者にとどまらず、武器供与などで深く関わっている国々も含め、共通のゴールを目指してほしい。
(原文)
シンガポール:
https://www.straitstimes.com/opinion/st-editorial/building-on-russia-ukraine-grain-deal
インド: