タイが付加価値税を引き上げか
コロナ対策支出と財源確保の両立に向け地元英字紙が提言

  • 2020/9/17

 新型コロナウイルスの感染拡大が収束の様相をなかなか見せない中、世界各地で行動規制の緩和や経済活動が再開されている。政府の財政出動も、緊急事態への対応から、長期的な取り組みへと変化しつつある。タイの英字紙バンコクポストは、9月10日付の社説で、長く7%に据え置かれてきた付加価値税(VAT)の税率を10%に引き上げる時がきたのではないか、と問題提起する。

コロナ禍対策のために巨額の財政を投じたタイ政府。今後の経済復興に向けた対策が問われている (c) Geoff Greenwood / Unsplash

通貨危機以来の不況に  

 タイ国家経済社会開発委員会(NESDC)によると、2020年第2四半期のGDP成長率は、前年同期比でマイナス12.2%。新型コロナウイルスの感染拡大が影響した。これは、1998年のアジア通貨危機の時に記録したマイナス12.5%に次ぐ減少幅だという。

 こうした状況下で、タイ政府は補助金などの支援パッケージを用意した。それらは必要な措置であったが、一方で「国庫は空っぽになった」と、社説は言う。「そして、さらに深刻なのは、輸出や観光業のように、この国の経済のエンジンとなり、歳入を生み出していたセクターが新型コロナウイルスの影響を受けたことだ」と指摘。「このような状況下でプラユット首相には専門家の意見を取り入れて考え方を変えることが求められる」と提言する。

 社説が、「意見を聞くべき専門家」として挙げたのは、2016年から2017年にかけて、プラユット首相の軍事政権時代に財務大臣を務めたソンマイ・パーシー氏だ。社説によれば、ソンマイ氏が手掛けた土地税などの改革は貧富の格差縮小や不公平の是正に不可欠なものと評価されていたが、「結局は骨抜きにされてしまった」という。

 「ソンマイ氏は今週、大胆な提案をした。政府は、付加価値税を現行の7%から10%に引き上げるべきだ、という意見だ。引き上げを実施すれば、数十億バーツの歳入が生み出される。支援策への財政支出が大きな負担となった昨今、増税は避けられない」

大胆な増税を    

 社説によると、2020年のタイの経済成長率は、マイナス7%から9%に落ち込むとの見方がある。さらに、新型コロナウイルスに加え、たびたび起きる反政府抗議運動も、政権の安定性を揺るがすものとして懸念されているという。

 このような状況下では、いかに歳入が必要であっても債務は好ましい選択ではない、というのが社説の主張だ。

 1992年にタイに付加価値税が導入された時の税率は10%だった。しかし、1997年に民間セクターの要望を受けて7%に軽減されて以降、どの政権も付加価値税率を7%に固定し続けた。「他国に比べ低い税率で国民を納得させるため」だったという。

 民間セクターは、今回も経済成長に負の影響を与えるとして、政府に付加価値税率7%の維持を要請した。しかし社説は、「国庫が空っぽになった今、プラユット政権にはそんなに多くの選択肢はない。むしろ、この国をこれ以上苦しめないための大胆な決断が求められている」として、「プラユット政権は、付加価値税を引き上げて10%に戻すことについてしっかり検討すべきだ」と、提言する。

 「もちろん、引き上げに伴う痛みはあるだろう。しかし、予算が慎重に使われれば、結果的には国のためになるはずだ。

 ともあれ、政府が付加価値税を引き上げるという決断をするなら、政府は歳入と歳出の均衡をより慎重に図り、1バーツたりとも無駄にしないという考えをもつということが何より大切だ」 先進工業国であれ、新興国であれ、新型コロナウイルスの影響は国家財政に深刻な打撃を与えている。経済活動が停滞する中、国民に対して十分な支援策を打ち出しつつ財源を確保しなければならない苦しみは、どの国も同じだ。どれだけその国の事情に合った判断を下すことができるか。世界中で、国の指導者の手腕が問われている。

 

(原文: https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/1982683/time-for-a-hike-in-vat-)

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