11/9、カンボジア野党指導者の「帰国宣言」
隣国・タイの論調

  • 2019/11/6

 カンボジアは間もなく11月9日に独立記念日を迎える。この日、フン・セン政権に弾圧された最大野党勢力、旧救国党のサム・レンシー党首が「カンボジアに帰国する」と宣言をしている。海外にいるサム・レンシー氏がどのように入国するのかは明らかにされていないが、隣国タイから陸路で入国する可能性も指摘されている。タイの英字紙バンコクポストはこの件を社説で採り上げ、フン・セン政権の姿勢を厳しく非難している。

カンボジアのフン・セン政権に弾圧された旧救国党のサム・レンシー元党首はベルギーのブリュッセルにあるEU本部の前で4年ぶりの「帰国」に向け抱負を語った (2019年11月4日撮影) (c) AP/アフロ

「カンボジアの民主主義は死んだ」

 バンコクポストは社説で、隣国カンボジアの与野党対立を次のように表現している。「最大野党勢力であったカンボジア救国党とその主要党員への残酷な政治粛清により、フン・セン首相率いるカンボジア人民党は“偽物”の選挙で勝利し、権力の座にいまなお居座ることができている。しかしそれは、カンボジアとその国民の未来に混乱を残すだけのことだ。カンボジアは(救国党が解党された)2017年以降、一党独裁となり、民主主義は事実上死んだ」

 サム・レンシー氏が創設したカンボジア救国党は、2017年9月に当時のケム・ソカー党首が逮捕され、同年11月には最高裁により解党を命じられた。さらに、118人の主要党員は向こう5年間の政治活動の禁止を命じられた。その結果、救国党は2018年7月に実施された国民議会選挙に参加することができず、125議席すべてを与党・人民党が独占する結果となった。

 逮捕を逃れるため国外にいるサム・レンシー氏の「帰国宣言」は、挑発的なものだった。「きたる独立記念日に、海外に散っている救国党幹部や、海外で暮らしているカンボジア人を伴って帰国する」と、SNSを通じてメッセージを発したのだ。カンボジアの地元紙やバンコクポストによれば、この宣言を受けて、カンボジア政府は救国党の支持者らを多数逮捕し、事情聴取を行っているという。

経済的損失を指摘

 11月9日が近づくにつれ、果たして帰国が強行されるのかが焦点になってきた。なかでも注目されるのは、陸の国境を接するタイ政府の対応だ。タイは、サム・レンシー氏が頼る米国の同盟国であり、現在のタイ・プラユット政権は、タクシン元首相と近かったフン・セン政権とは距離感がある。

 しかし、社説によると、タイ政府は10月下旬、救国党の副党首であったム・ソクア氏のタイ入国を拒否した。また、「タイ政府は、カンボジアの野党勢力リーダーがタイ国内のカンボジア移民労働者を伴い、“人民蜂起”の形でカンボジアへ帰国するという計画の実行を許さない、と警告している」という。

 タイ政府と同様に、社説もまた、「劣悪な非民主的状況は十分理解するが、もっと現実的な手法を選べ」という含みがあるのだろうか、サム・レンシーらの強行突破や人民蜂起を支持するというよりも、現代社会においてカンボジアが非民主的であるがゆえの経済的な損失について、次のように説く。

 「フン・セン政権によるこうした政治的な弾圧が、欧米との輸出に影響するという事実を軽く見てはならない。欧州は実際、特恵関税制度の廃止を検討しており、米国も外交制裁や特恵制度の見直しを始めている。中国の投資に依存しているフン・セン首相は強気だが、カンボジア国内には高まる中国依存に対する違和感が増大しつつある。利益の分配が公平ではないからだ。また、カンボジアの経済成長を支えたのは社会の安定だという指摘もあるが、その“安定”は、反対勢力を弾圧することによって実現されたものであることを忘れてはならない。フン・セン首相は、西側諸国との貿易利益を失ってまで中国に依存するべきではない」

 その上で社説は、「フン・セン首相は、弾圧された旧救国党に対する国民の同情が高まり、それが与党や軍部にも広がる前に、彼らの復帰を認めるべきである」「民主化に回帰することこそ、カンボジアにとって、政治的にも、社会的にも、経済的にも、利益をもたらすのだ」と、進言する。

 現在、カンボジア国内には、こうした政府批判を行うメディアはない。救国党に同調すれば、国家転覆罪などに問われかねないからだ。隣国とはいえ、いや、隣国だからこそ、このような正論がメディアに掲載されることは重要で、その意味は大きい。

(原文:https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/1780184/hun-sen-must-compromise)

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