中国とインド、それぞれの「対プーチン」事情
上海協力機構に集まった首脳たちが模索するウクライナ後の世界
- 2022/9/27
インドのモディ首相とロシアのプーチン大統領が9月16日、「上海協力機構(SCO)」の首脳会議で訪れていたウズベキスタンのサマルカンドで会談した。モディ氏はウクライナ危機に関して「今は戦争をしている場合ではない」と述べ、プーチン大統領のウクライナ侵攻に苦言を呈したという。各種報道によれば、プーチン氏は「紛争ができるだけ早く終わるように尽力する」とした上で、「事態が収拾しないのはウクライナ側が交渉を拒否しているからだ」とも主張した。
プーチン大統領は、サマルカンドで中国の習近平国家主席とも会談をしている。プーチン氏は、習氏に対し、「ウクライナ問題についてバランスのとれた立場」をとる中国への感謝の意を示したという。一方、習氏は、プーチン大統領を「旧友」と表現したうえで、ウクライナに言及することなく、「世界が変化する中、中国はロシアと協力して大国の責任を果たす」という趣旨の発言をしたという。モディ氏、習氏とも、ロシアによるウクライナ侵攻後にプーチン大統領と会談したのは初めてだった。
「失われた機会」
この会談についてシンガポールの英字紙ストレーツ・タイムズ紙は、「失われた機会」と題した社説を9月19日付で掲載した。
社説は、中国とインド、それぞれのロシアに対する個別事情に触れ、「インド、中国ともロシアとの関係を断つわけにはいかない国である」としている。
中国の姿勢については、「ウクライナに言及しなかったことでロシアと距離を置いた」との見方もあるが、ストレーツ・タイムズは「中国とロシアのパートナーシップにいくばくかの限界があるのは確かだが、ロシアから世界で最も多くの化石燃料を輸入している中国としては、関係を断ち切るわけにはいかないのが現実だ」と、表現。また、インドについては「中国との国境地帯で対立を抱えており、ロシアから世界で最も武器を輸入している国として関係を見直すわけにはいかない」と、書いた。
社説は、「サマルカンドでの上海協力機構会議は、中国とロシアが西側諸国による国際秩序に対抗する枠組みを率いることを世界に示す目的があった。こうしたイニシアティブを通して、中国は自身が建設的な国際社会の牽引者であることを示そうとした。ロシアはその中国の重要なパートナーになり得たのであろうが、プーチン大統領は、最近のような事情に直面してもなお、ウクライナ問題を解決しようとしていない」と指摘。中国の目論見がロシアの暴走によって実現していない、との見方を示した。
平和推進の力を高める発言
モディ首相のおひざ元、インドでは「戦争をしている場合ではない」という発言はどうとらえられているのか。
インドの英字メディア、タイムズオブインディアは、9月18日付の社説で「プーチン大統領に対するモディ首相の発言はインドの平和推進の力を高めるものだ」と、高く評価した。
インドは、エネルギーや武器の輸入の観点からロシアと断ち切れない関係にあるものの、国内ではウクライナ侵攻を支持しない声が強かった。社説は、モディ首相の発言はインドが従来から示してきた姿勢であるとしながらも、プーチン大統領に直接伝えたことで「インドはついに言うべきことを言った」と、評価した。
さらに社説は、今後、インドが世界の平和構築にどのような役割を果たすのか、という点を論じている。「現在、世界第5位の経済大国であるインドは、2027年には4位になり、2029年までには3位になる。インドは、経済大国でありながら他国を侵攻する国ではない」と、強調。経済力を増大させながらも平和的な外交によって存在感を拡大していくことへの期待を込めるとともに、「インドは世界最大の民主主義国だ」と述べ、民主主義的な価値観を国際社会と共有できる国だと主張した。他方、ロシアを批判したからといっても西側諸国に与するわけではない、とも指摘した。
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ロシアと中国、プーチン大統領への姿勢に共通しているのは、「ロシアを全面的に支持することはしないが、西側諸国と同じ考え方でもない」ということだ。とはいえ、中国とインドが全面的に協力することも、これまでの経緯からは考えにくい。共産主義と民主主義というイデオロギーの違いも大きい。「ウクライナ後」の世界秩序の構築に向けて、主役となるべき国々がそれぞれの道を模索しているようだ。
(原文)
シンガポール:
https://www.straitstimes.com/opinion/st-editorial/the-straits-times-says-a-summit-meeting-of-lost-opportunities
インド:
https://timesofindia.indiatimes.com/blogs/toi-editorials/the-peace-principle-modis-words-to-putin-didnt-mean-a-change-in-stance-indias-ability-to-wage-peace-is-set-to-increase/