月刊ドットワールドTV #21 振り返り 「胡椒畑から見つめたカンボジアの30年」
変貌する国で一粒の胡椒がつなぐ未来 「世界がもっと丸くなればいい」

  • 2026/5/12

 1990年代初頭、内戦の傷跡が色濃く残るカンボジアに足を踏み入れた一人の日本人がいました。学校づくりに携わり、産業の必要性に気づき、やがて「世界一」とも称されたカンボジア胡椒の復活に人生をかけることになる倉田浩伸さんです。

 『月刊ドットワールドTV』#21(2026年5月11日19時~)では、カンボジアで30年以上にわたり活動を続けてきた倉田さんをゲストに迎え、激動するこの国の歩みと変遷、そして倉田さん自身の取り組みについて話を聞きました。

「世界一」の胡椒との出会い

 倉田さんが初めてカンボジアを訪れたのは、1992年。和平合意から間もない頃でした。難民キャンプから帰還した人々の生活を支えるボランティアとして現地入りし、そこで出会ったのが、「21歳になるまで学校に通う機会がなかった」という若者でした。1970年生まれの彼は、幼少期から内戦とポル・ポト政権の混乱のなかで育ち、「学ぶ」と機会を奪われていたのです。

NGOのボランティア隊員として活動していた頃の倉田さん (c) 本人提供

 この経験をきっかけに、倉田さんはNGOの学校再建活動にも参加。しかし、校舎を建てても先生の給料が払えず、親に現金収入がなければ子どもたちは通えないという現実に直面します。

 「学校を作るだけでは足りない。産業を作らなければ、人々の暮らしは立ちゆかない」と考えるようになった倉田さんが挑戦を始めたのが、産業の育成でした。      

カンボジアが胡椒の産地だったことを知るきっかけとなった1960年代のカンボジアの農業統計 (c) 倉田さん提供

 日本に輸出できるカンボジアの農産物を探していた倉田さんは、偶然、1960年代の古い農業統計資料を入手し、かつてこの国で胡椒の栽培が盛んに行われていたことを知ります。さらに調べると、百科事典に「カンポットで栽培される胡椒の品質は世界一」と書かれているのを見つけた倉田さんは、2年かけて現地を訪ね歩き、ポル・ポト時代を生き延び、数本の胡椒の苗から細々と栽培を続けていた一人の農夫に出会います(詳しくは、記事「胡椒畑から見つめたカンボジアの30年」(2026年5月10日付)をご参照ください)。

 最初に見た黒胡椒にはそこまで驚かなかったものの、「これは自分たちだけの特別な胡椒だ」と出してくれた瓶の蓋を開けた瞬間に立ち上った甘く華やかな香りに衝撃を受け、「これは確かに世界一かもしれない」と胸を動かされた倉田さん。その出会いが、胡椒の復活を決意するきっかけとなりました。     

成長するカンボジアの光と影    

 この30年で、カンボジアは大きく変わりました。かつて赤土の道が続いていた首都プノンペンには高層ビルが並び、日本企業の進出も急増しました。また、近年は、中国資本による高速道路や水力発電などのインフラ整備も進んでおり、物流や電力事情も大きく改善していると倉田さんは言います。

 一方で、その変化は地方の農業にも大きな影響を及ぼしています。中国向け輸出の拡大でドリアン栽培の人気が高まり、胡椒農家が転作するケースが増加。さらにツバメの巣の需要増を受けて、地方都市ではツバメの巣用のビルが次々と建設されているといいます。国レベルの経済政策や国際関係の変化が、農村の風景や人々の選択を変えていくダイナミズムも、倉田さんならではの視点で語られました。

試練の先に見据える新たな挑戦

 順風満帆に見える歩みのなかで、近年、倉田さんは大きな試練に直面しました。2023年の深刻な干ばつによって約1600本の胡椒の苗が枯死。2024年末には、倉田さんがかつて出会った農夫の息子で、長年のパートナーだった農園主が急逝したことから、農園の大半を継続利用できなくなりました。

 それでも、倉田さんは前を見据え、新たな構想を進めています。カシューナッツの木陰を活用したアグロフォレストリー型オーガニック農園への転換や、若い世代への技術継承、さらに長年の経験のデータ化とAIを活用した栽培の「見える化」など、単なる農園の再建にとどまらない、新しい農業への挑戦です。

 最後に倉田さんは「世界がもう少し丸くなればいい」と語りました。「中国が、タイが、ではなく、みんなで世界を考えていけるようになればいい」。国境紛争や、国際情勢の変化を間近で見てきたからこその重みがある言葉です。詳しくは、ぜひアーカイブをご視聴ください!

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