『月刊ドットワールドTV』#10 「トランプ関税」騒動を中国はどう見ているか
アメリカ国際貿易裁判所の司法判断を受けて今後の見通しを考える

  • 2025/6/18

 ドットワールドと「8bitNews」のコラボレーションによって2024年9月にスタートした新クロスメディア番組『月刊ドットワールドTV』が、10回目のライブ配信を行いました。今回は、ドットワールド編集長の玉懸光枝が、中国に詳しいジャーナリストの福島香織さんとオンラインでつなぎ、「トランプ関税」に対する中国の見方について、8bitNewsの構二葵さんとともに伝えました。

長期的に続く可能性が高い米中対立

 10回目となる番組は、「トランプ関税」騒動を中国はどう見ているか」と題し、6月17日の日本時間21時半から8bitNews上で配信されました。

 今年1月に二度目のアメリカ大統領に就任したドナルド・トランプ氏は、発足直後から「相互関税」をはじめ、10%の一律関税、そして中国、メキシコ、カナダに対する追加関税などを打ち出して、世界に大きな影響と混乱をもたらしています。
 こうしたなか、アメリカの国際貿易裁判所が5月末、一連の措置を「大統領権限を越えている」として差し止めを命じ、政権側にとっては足元で逆風が吹いているなか、「関税戦争」のもう一方の当事者である中国の見方について、レギュラー執筆陣の一人、福島香織さんに聞きました。福島さんは、トランプ氏再選が決まった直後の昨年11月の放送回に続いて、二度目の出演になりました。

 福島さんはまず、トランプ関税のターゲットは中国であると分析したうえで、「トランプ関税に震える世界 台湾がとった生存戦略とは」(2025/4/11付)の記事に触れつつ、台湾の頼清徳政権が報復措置を取らない方針を選択したことを紹介。伝統産業や中小企業のマイクロビジネスを支援して産業のイノベーションを推進することや、中長期的な経済開発計画を打ち出し、米国企業が台湾に足場を置きながら世界のサプライチェーンを展開できるようにサポートすることなど、5つの対応戦略を打ち出してアメリカとの交渉を進める戦略を採用したとの見方を示しました。
 続いて、「中国がベトナム重視の周辺外交を始動」(2025/5/25付)の記事にも触れながら、中国外交が、「国境を接する近隣の国々とは緊張関係に、遠い国ほど協力関係を展開する」という伝統的な多極外交から、周辺国重視にシフトし、特にベトナムとの関係強化を重視している点を指摘しました。さらに、その背景として、「関税戦争のターゲットが中国にあり、中国を排除した国際社会の枠組みを再構築しようというアメリカのトランプ大統領の意図を中国の習近平国家主席が受け取っている」と指摘。周辺運命共同体という新しいフレーズの下、ベトナムをはじめ、ミャンマーやタイなどのインドシナ半島とともに「中国陣営を固め、新東西冷戦に対抗していこうという戦略だと分析しました。さらに、ベトナムが今、中国とアメリカとの間で三角関係にあり、両方から秋風を送られているとの見方を示す一方、習近平氏のロシア訪問や、中国とロシアの安全保障協力の強化に見られる両国の蜜月関係にも触れ、「米中対立は長期的に続く可能性が高い」と指摘しました。

米国際貿易裁判所による司法判断の受け止め方は

 さらに、アメリカの国際貿易裁判所が5月末にトランプ大統領の関税措置について「権限を越えている」として差し止めを命じたことにも話題が広がると、福島さんは「中国を西側諸国にとって最大の脅威と見る見方自体は誤っていない」という安全保障の専門家の見方を紹介しました。そのうえで「関税戦争の本質は、関税をかけることではなく、中国を国際安全保障からいかに排除し、アメリカ中心の枠組みを再構築するかというところにある」との見方を示し、「中国を完全に排除しようとする今回の関税戦争がアメリカの安全保障上、本当にプラスになるかどうかは見解が分かれている」と指摘しました。一方、いくつものカードを用意している台湾にとっても、トランプ関税へのストップは当然ながらありがたいだろうとも指摘しました。
 また、スタジオの構さんが、スマートフォンやパソコンなどの電子機器については4月の時点で関税の対象から外されたことに触れ、「中国からすると経済力や技術力は自分たちがつかんでいるという自信につながったのではないか」と問いかけると、福島さんは、「習近平国家主席とトランプ大統領の電話会談でもレアアース問題は話題に上った」「中国もアメリカも痛み分けの部分はあるが、だからといって完全に和解し両国が融和ムードに転換するかといえば、そうはならないだろう」との見方を示しました。

トランプ氏に「中国共産党に対抗してくれる強さ」を期待する声も

 番組ではこのほか、「社会を読み解く」の新着記事の中から、最後の秘境と称されるフィリピンのパラワン島で起きている乱開発の実態を描いたドキュメンタリー映画『デリカド』を紹介する「「最後の秘境」を「失われた秘境」にしないための命懸けの闘い」(2025/6/4付)や、今年の世界報道写真展を訪ね、受賞作品を紹介した2本の記事「両腕を失ったガザの少年のまなざし―2025年世界報道写真展より」(2025/6/12付)と「「これは人類への冒涜だ」─誰にも知られず死んでいくミャンマーの人々のことを伝えるために」(2025/6/2付)、さらに、援助予算の削減が続く米国内で中国の支援規模との比較を試みる論調が見られる背景を分析した「援助予算を縮小する米国から見た中国の支援」(2025/6/6付)を紹介しました。
 また、「報道を読む」の新着記事の中から、特に反響が大きかった「カシミールのテロ事件を巡り交錯するインドとパキスタンの思惑」(2025/5/30)、「極限のガザ「赤ちゃんを殺さないで」 アジアからも抗議の声」(2025/6/11付)、「「タブー」破った米国出身のローマ教皇 アジア諸国の反応は」(2025/6/9付)、そして「米中貿易戦争で失われた「アメリカ的」な価値とは」(2025/5/29付)も紹介しました。

 最後に福島さんは、アメリカ的な価値の喪失に関連し、新疆ウイグル自治区出身で「變態辣椒(ビエンタイラージャオ、激辛唐辛子の意)というペンネームで活動するアメリカ在住の風刺漫画家が来日して面談した際のエピソードを紹介。「国際的な援助の縮小や、中国の人権問題を批判していたNGOやメディアへの資金援助が打ち切られたことについて話題を振ると、彼は昨年の大統領選でトランプ氏に投票したと語った」と話しました。福島さんによれば、いくら「アメリカ的な価値」が失われつつあっても、中国から亡命した反共産党的な中国人の間には、中国に対抗してくれる強さを期待してトランプ氏を支持する人々が一定数いるということです。
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 2019年7月にスタートしたドットワールドは、昨夏、創刊5周年を迎えました。これまでのご愛読と応援に心から感謝いたします。節目のタイミングでご縁をいただきスタートした8bitNewsとのクロスメディア番組「ドットワールドTV」を通じて、一層多くの方々に記事をお届けできれば嬉しいです。ぜひご視聴ください。
ドットワールドはこれからも世界の人々から見た世界の姿や彼らが大切にしているもの、各国の報道ぶりや現地の価値観を喜怒哀楽とともに伝えることで、多様な価値観を理解し、違いを受容し合える平和で寛容な一つの世界を築く一助となることを目指します。引き続きどうぞ宜しくお願いします。
 

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