アメリカ大統領選挙と長老政治
インドネシアの英字紙編集長が見る世界の政界の高齢化

  • 2020/11/20

 米国の大統領選挙は、大混乱を経て、ようやくジョー・バイデン候補の勝利が確定した。トランプ大統領は選挙結果の受け入れを拒否しているが、国際的にもバイデン氏の勝利がほぼ固まっている。11月4日付のジャカルタ・ポスト紙は、米大統領選と「長老政治」について、編集長の論説記事を掲載した。

2020年3月1日、アブドラ国王(右)から任命を受け、マレーシアの新首相に就任する誓いを立てるムヒディン・ヤシン氏(左)。同国をはじめ、70歳以上の高齢の「長老」たちが政治の実権を握っている国は多い(提供:Malaysia’s Department of Information/AFP/アフロ)

70代の政治家たち

 論説では、米政界の高齢化をこのように指摘する。「78歳のバイデン氏と74歳のトランプ氏、どちらが勝利するにしても、来年1月20日、米国の歴史上もっとも高齢の大統領が誕生することになる。大統領だけではない。上院議会も、81歳のミッチ・マコーネル上院議員、79歳のナンシー・ペロシ下院議長ら高齢議員たちが支配している」

 そして、「米国政治は世界で最も高齢化が進んでいるかもしれない」と述べ、「国民は比較的若い世代も多いため、人口構造が反映された政治構造とは言えない」と、指摘する。

「昨年、米国ではミレニアル世代と呼ばれる23歳から38歳の人口が、第二次大戦後に生まれたベビーブーム世代の人口を上回った。しかし、7300万人もいるミレニアル世代たちは、自分たちと同世代の政治家を予備選挙の候補者にすら立てることができなかった」

 その上で、「米国や、もしかしたら世界の国々で、長老たちが支配する政治というのが、動かしがたい規定路線として定着しているのかもしれない」との見方を示す。

 筆者がこう考えたのは、米大統領選で70代の候補者たちがしのぎを削ったからだけではない。日本も理由の一つだ。論説では、「9月に首相に就任した日本の菅義偉氏は、71歳。高齢化が進む国において、菅首相の選出は無難な選択だろう」と評する。インドにも70代の政治指導者がいる。1950年生まれのナレンドラ・モディ首相だ。2019年に首相に就いて以来、インドでは歴代4番目の長期政権になろうとしている。

 さらに論説は、「おとなりのマレーシアでは、73歳のムヒディン・ヤシン首相と、同世代のアンワル・イブラヒム氏が権力の争奪戦を繰り広げている。10月初め、アンワル氏はマレーシア国王と面会し、自身こそ政権を率いるだけの勢力を持っていると訴えた。なお、マレーシアでは、この政争が起きる以前は、95歳になったマハティール氏が首相を務めていた」と述べ、東南アジア諸国でも高齢政治が展開されていることを指摘した。

インドネシアも高齢化に

 では、かくいうインドネシアはどうか。ここでも、筆者が言うところの「長老政治」が見られるという。

 「インドネシアのプラボウォ国防大臣は、これまでのところ、2024年の大統領選に出馬する可能性を否定していない。もし出馬すれば、そして勝利すれば、彼は73歳の時に大統領に就任することになる。さらに、プラボウォ氏が出馬する場合、インドネシア闘争民主党のメガワティ元大統領の存在は不可欠だろう。彼女はその時、77歳だ」

 論説によると、筆者はいわゆるX世代である。この世代は、1980年代に成人期を迎え、「ミージェネレーション」との別名がある通り、内向的で、政治や社会に対して冷めた目を持っていると言われる。そんな筆者は、X世代として皮肉まじりにこう述べる。

 「私自身は高齢の方々、特にベビーブーム世代が、今なお、責任ある地位に君臨していることを歓迎する。なぜなら、自分たちは普段は注目を浴びるスポットライトから離れ、必要な時だけ登場すればいいからだ。X世代が好むのは、まさにこういう関わり方だ」

 しかし筆者は、「政界に高齢者が多すぎると、問題も起きる」と、辛辣な指摘を続ける。

 「人間は70代を過ぎれば、認知能力が劇的に落ちるのは当然だ。短期間に処理したり吸収したりできる情報やデータ量も激減する。かつての“古き良き時代”の記憶にとらわれた判断が弊害になることもあるだろう」「トランプ大統領が掲げたのは、“偉大なアメリカをもう一度”というスローガンだった。これは、1950年代の“古き良き”時代を取り戻そうという訴えにほかならない。モディ氏が掲げるヒンドゥーナショナリズムも同様だ」

 その上で、論説は「この老人支配を排除する前に、この大きな変化の時代にはその選択がベストかもしれない、ということを考えてみよう」と呼びかけている。「高齢の政治指導者たちは、確かに理想主義には欠けるかもしれないが、その分、経験を有しており、おそらく知恵がありそう(ジョー・バイデン氏はそれを持っていそう)」だからだ。「高齢者が選ばれるということは、彼らが持っている経験こそが、その国で今、最も求められているということ、なのかもしれない」と、筆者は補足する。

 この論説の結論は、今一つ明確ではない、しかし、こうして並べてみれば、確かに、多くの国で政界の高齢化が進んでいる。他方、ニュージーランドのアーダーン首相は40歳、カナダのトルドー首相は48歳であり、若き指導者たちが活躍している国々もある。この事実を筆者はどう見るのだろうか。さまざまな考察ができる話題である。

 

(原文: https://www.thejakartapost.com/academia/2020/11/04/commentary-saving-democracy-in-countries-for-old-men.html

 

 

 

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