自然と人間、どのように共存するか
深刻化する環境問題を報じるシンガポールとネパールの社説

  • 2022/8/11

 気候変動をはじめとする環境問題が、グローバルイシューとして国際政治の場でも共通の課題となって久しい。しかし、その取り組みにゴールはなく、多様な課題が常に存在する。

ネパールの自然保護区では象の原因不明の死が相次いでいる (c) Prabin vlog / Pexels

再生産力を上回る欲望

 シンガポールの英字紙ストレーツタイムズは、7月27日付の社説「人間と自然の関係を見直す時」で、この問題を問いかけた。
 同紙が取り上げたのは、最近発表された、環境に関する報告書だ。6月10日に国連の科学研究者たちが発表した生物多様性をめぐる報告書では、人間と自然の関係性に着目。世界で5人に1人が野生の植物、菌類や藻類を食料としたり、採取して換金したりしているほか、3人に1人が薪を使って調理したりして暮らしているにもかかわらず、人間は自然の動植物を搾取・破壊したり、違法に採取・捕獲して取引したりするため、多くの動植物が絶滅の危機にさらされていると指摘する。また別の報告書では、経済活動によって公害や森林破壊、湿原の消滅などが引き起こされていることにも問題提起した上で、次のように指摘する。
 「人間は、自然なくしては生きていけない。食料を育てる土壌から、水を得る森林や河川、酸素をつくりだす海洋のプランクトンに至るまで、自然界とともに生きているのだ。しかし、急増し続ける地球上の人口は1970年代比で120%に達し、経済活動は拡大の一途をたどり、自然破壊や搾取が続いている。さまざまな経済活動が化石燃料を中心とするエネルギーを必要とし、利用した結果、大気汚染が起き、温室効果ガスが排出されると、地球は温暖化し、自然にさらにダメージがおよぶだろう」
 さらに社説は、「自然は再生産する素晴らしい力を有している」とした上で、「人間の現在の経済モデルでは、物質への欲はきりがなく、地球は力を失う一方だ」と述べる。そして、「人間が費やした資源のうち、リサイクルされているのはほんの一部だ」と指摘し、「もっと効率よく公平なグロバール経済を確立しなければ、さらに事態は悪化するだろう」との見方を示した。

保護区で相次ぐ原因不明の象の死

 ネパールの英字紙カトマンドゥポストは、7月10日の社説で、ストレーツタイムズとは別の角度から自然と人間の関係性を採り上げた。
 社説が取り上げたのは、ネパール国内の自然保護区内で野生の象が原因不明の死を遂げたという事実だ。7月上旬、ある自然保護区で一週間のうちに2頭の象が死体で発見されたという。象には目立った外傷がないため、専門家は電気柵などに触れて電気ショックで死んだのではないか、と見ているという。
 社説によれば、ネパールではトラやサイ、ブラックバックなどの保護に取り組んでおり、その数は増えている、という。その一方で、野生動物が人間の村に侵入して農作物を荒らすなどの被害も発生しており、今回の象の死も、集落の畑の周囲に電気柵が張られ、それが原因ではないか、という見方だ。

 「人間と自然との関係に決定的な正解はない」と、社説はいう。その思いに基づく経験は、都市国家のシンガポールの人々と、自然の中に生きるネパールの人々とはまるで違うだろう。しかし、自然と共存する以外に人間が地球上で生き延びる道はない。環境や考え方が違っても、共通の課題だ。

 

(原文)
シンガポール:
https://www.straitstimes.com/opinion/st-editorial/the-straits-times-says-time-to-rethink-relationship-with-nature

ネパール:
https://kathmandupost.com/editorial/2022/07/10/human-wildlife-conflict

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