台湾情勢をめぐって国際政治の戦いが激化
倚米か疑米か―台湾世論の分断を誘導する中国

  • 2023/3/28

きたる大統領選の行方も左右か

 こうした台湾をめぐる米中の国際政治の綱引きが過熱しているのは、2024年1月13日に予定されている台湾総統選と関係がある。民進党は頼清徳・副総統を総統候補として立てることを決めている。国民党はまだ候補者が決まっていないが、侯友誼・新北市長が有力視されている。この選挙では、対中関係だけでなく、米国とどのような距離感を取るか、つまり、疑米論か倚米論かも争点になると見られている。

台北市内にそびえる101タワー(筆者撮影)

 この「疑米論」というのは、米国のジャーナリスト、ガーランド・ニクソン氏が今年2月、「ホワイトハウスに台湾破壊計画がある」とツイッター上でつぶやいたことにより盛り上がった。これを受け、元国家安全保障担当大統領補佐官のロバート・オブライエン氏が3月14日に米メディア「インサイダー」に寄稿し、「解放軍が台湾に上陸した場合、米軍はまず台湾島内の半導体工場が中国の手に落ちないように破壊する作戦をとるだろう」と言及したことから、世論がさらに炎上した。蔡英文政権が米国の要請を受けて国防予算を増額し、徴兵制を延長し、米国の武器を購入していることへの批判も相まって、「台湾が米国に操られて中国と戦争させられる」という危機感につながったのだ。国際的な背景としては、ロシア・ウクライナ戦争の最中に起きたノルドストリーム爆時事件の真相について、米国の老ジャーナリスト、シーモア・ハッシュが匿名情報筋の情報として、2月8日に米軍犯行説をブログに投稿したこととも関係がある。ホワイトハウスはこれを全面的に否定し、3月上旬にはCIA筋がリークしたとみられるポーランドの親ウクライナ過激派犯行説がドイツARDやニューヨークタイムズを通じて流布された。真偽不明のニュースながら、「米国ならやりかねない」という「疑米論」の拡大を後押しすることになった。

 その一方で、「中国の武力統一の脅威に抵抗するためには、米国に頼るしかない」という「倚米論」も根強い。世論がこれだけ割れている背景には、多分に中国の誘導もある。来年の大統領選の行方を左右する大きな要因になるだろう。

 米国を疑う気持ちが、すなわち中国を信じるということにつながるわけではないものの、米中対立がますます先鋭化すれば、疑米論・倚米論が、戦争か平和かという論争に単純化されやすい。そして、こうした世論の単純化と分裂こそが、中国にとって有利に働くことになると警戒感をもつのである。

バスケットボールに興じるミクロネシア連邦の少年たち(ポンペイで2011年7月8日撮影) © U.S. Air Force photo by Tech. Sgt. Tony Tolley /wikimediacommons

 仮に、日米安保の下で長らく平和を維持してきた日本が、こうした台湾世論の動揺を解消するために説得力を持つのだとしたら、台湾に自由主義国家の仲間であり続けてもらうために、日本政府には、ぜひその役割を考えてほしい。

 

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