オランダでサッカー観戦後にあいついだイスラエル人サポーターへの襲撃
事件の報道ぶりの違いに浮かび上がる国際社会の分断

  • 2024/11/15

 オランダの首都アムステルダムで11月7日、サッカーのヨーロッパリーグの試合が開催され、現地のアヤックスと、イスラエルのマッカビ・テルアビブが対戦した。試合後、イスラエルのサポーターらが各地で襲撃され、5人が負傷する事件が起きた。この事件は世界中で取り上げられたが、報道ぶりや焦点の当て方の違いからイスラエルとハマスの戦闘を巡る国際社会の分断が浮き彫りになっている。

 本記事では、カタールのAl-Jazeera、オランダ英字紙のDutch News、そして米国のNew York Times紙の記事を比較し、視点の違いを紹介する。

(c) Markus Spiske/ Pexels

 パレスチナ旗をはがすイスラエル人サポーターの様子がソーシャルメディアで拡散

 アムステルダムで行われたヨーロッパリーグの試合後、イスラエルのサッカーファンが親パレスチナ派のデモ隊と衝突した事件について、Al-Jazeera のステップ・ヴェッセン記者は、11月8日付の記事で、アムステルダムから「数日間にわたる緊張の高まりの結果だ」と指摘。「アムステルダムに到着したマッカビ・テルアビブのサポーターら数百人は、事件に先立ち、メイン広場でイスラエルの旗を振りながら盛大に集会を開き、パレスチナの旗を剥がして回っていた」と伝えた。

 事実、イスラエル人サポーターらがスローガンを叫びながらパレスチナの旗をはがす様子は、ソーシャルメディアでも拡散されている。なかには、イスラエル軍によるガザ攻撃について、「イスラエル軍に勝利を!アラブ人を殺せ!」と歌っている映像もある。

 また、アムステルダムのジャジー・ヴェルドゥイゼン市議会議員によれば、イスラエル人サポーターは試合前にパレスチナ人サポーターに対して暴力を扇動していたという。「彼らは、パレスチナ国旗を掲げたアムステルダム市民の家を次々に攻撃し始めました。これこそが今回の暴動の始まりだったのです」と議員は語っている。

 これらを受けてオランダ警察は、「政治的色彩の強い事件が発生したため、特に警戒している」と、ソーシャルメディア上で発信した。

 パレスチナ外務省は今回の事件を「反アラブ斉唱」だとして、パレスチナ国旗に対する明白な攻撃を非難した。さらにパレスチナ外務省は、事件から2日後の11月9日の金曜日にX(旧Twitter)に声明を投稿。これらの騒乱の扇動者について直ちに調査を行い、オランダに居住するパレスチナ人とアラブ人を保護するよう、オランダ政府に求めた。

オランダ首相が「反ユダヤ主義の根絶が最優先課題」と強調

 一方、オランダのDutch Newsは11月11日付の記事で、ディック・シューフ首相が11月11日に記者会見を開いたことを伝えている。首相は「11月7日のアムステルダムの暴力事件は“移民を背景とする”若者たちが中心になって起こしたもので、彼らには厳しい措置を講じる必要がある」と述べたという。

 さらにシューフ首相は、試合前にイスラエルのサポーターたちが起こした問題について、「“ユダヤ人狩り”や、反ユダヤ主義的な暴力の言い訳にはならない」と述べ、「よりよい統合を実現し、子育てや教育を通して反ユダヤ主義を根絶しなければならない」とも発言したという。そのうえで記事は、「オランダのユダヤ人コミュニティの安全を守るために、現在、こうしたユダヤ人への醜悪な攻撃に関与した人物を逮捕することに全力を注いでいる」というシューフ首相の決意を伝えた。

 さらに記事は、事件後、イスラエルのギデオン・サアル外相がオランダを訪問し、「正義が守られ、野蛮な犯罪者たちが罰せられるように」、今回の襲撃事件の目撃者と証拠の確保に向けてイスラエル警察が協力すると申し出たことも伝えている。オランダ政府当局もアムステルダム行政も、この申し出を受け入れているという。ギデオン・サアル外相は、オランダ訪問中に会った極右指導者のゲルト・ウィルダース氏に対し、「イスラエルの高官や政府たちは決してあきらめないだろう」と語ったという。

 懸念されていたトラブル 「ユダヤ人狩り」の呼びかけも

 一方、アメリカのNY Times紙は、11月9日付の記事で、事件の翌朝である11月8日にオランダ警察がアムステルダム市内で記者会見を開いて「サッカーの試合の応援に来たイスラエルのサポーターらが攻撃を受け、罵倒されたり花火を投げつけられたりして、62人の逮捕者が出た」と発表したことを伝えている。これまでに5人が負傷して病院に運ばれたが、8日のうちに退院したという。

 そのうえで記事は、「昨年10月のハマスによるイスラエルへの奇襲と、それに対するガザへの報復攻撃を踏まえ、イスラエルのマッカビチームの遠征を巡ってはトラブルの可能性が懸念されていた」「今回のマッカビの遠征は、1938年11月9日夜から10日未明にかけてナチス・ドイツの各地でポグロム(ユダヤ人への集団的迫害行為)が発生した“水晶の夜”の週にも重なっていた」と伝えている。

 さらに記事によれば、試合終了後、マッカビのファンたちがアムステルダム市街に戻った後、アムステルダムのフェムケ・ハルセマ市長は「彼らに対して数回にわたるスクーターでの”ひき逃げ”が行われた」と明らかにしたという。被害を受けたサポーターらはオランダ警察に保護され、バスでホテルに運ばれた。

 フェムケ・ハルセマ市長は記者団に対し、「今回の事件は恥ずべきものだ。SNSのテレグラム上のグループでは“ユダヤ人を狩りに行こう”というやり取りがあったことも確認されている。あまりにひどくて言葉が見つからない」と発言したという。

 事件翌日の8日の朝、イスラエル航空は救援便としてチャーター便を2便運航するとともに、マッカビのサポーターたちに対し、搭乗するまでホテル内に留まり、ユダヤ教のシンボルを身に着けないよう指示を出したという。多くのサポーターたちは警察に保護され、ホテルからアムステルダムのスキポール空港までバスで移動して帰国する事態となった。

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 このように、カタールのAl-Jazeeraは、イスラエルのサポーターによる暴挙や、パレスチナのデモ隊との衝突について詳しく報じた。一方、事件が起きた地元オランダの英字紙は、イスラエルのサポーターたちを「ユダヤ人」と呼び、今回の事件が反ユダヤ主義的な暴力であるという視点から報道している。これは、オランダがドイツの占領下におかれていた第二次世界大戦中、オランダ国内にいた約14万人のユダヤ人をナチス・ドイツによるホロコースト(大虐殺)から保護せず、75%近くが殺害されたという歴史があるためと思われる。また、アメリカのNew York Timesは、被害にあったイスラエル人サポーターらの保護と救出に焦点を当てて伝えている。 事件を伝える記事を通じて、それぞれの国の姿勢が如実に伝わってくる。

 

出典:
カタール: https://www.aljazeera.com/news/2024/11/8/israeli-football-fans-clash-with-protesters-in-amsterdam

オランダ: https://www.dutchnews.nl/2024/11/eradicating-anti-semitism-is-a-top-priority-says-dutch-pm/

              https://www.dutchnews.nl/2024/11/amsterdam-council-to-hold-emergency-debate-on-thursdays-attacks/

アメリカ: https://www.nytimes.com/athletic/5908576/2024/11/09/maccabi-tel-aviv-fans-attacked-why/

 

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