イスラエルのレバノン侵攻で東南アジアの人々も犠牲に
紛争下であらわになる外国人労働者の脆弱性

  • 2024/11/13

イスラエル軍によるレバノン侵攻は、中東で働く東南アジアの人々にも多大な影響をもたらしている。

(c) Omid Armin / Unsplash

路上に置き去りにされる外国人労働者

 フィリピンの英字紙デイリーインクワイアラーは、10月10日付の社説で、フィリピン人をはじめ、レバノンで働く外国人の安全について懸念を示した。

 同紙によると、国連は10月、レバノンで働く外国人家事労働者について、ある警告を発した。「イスラエルとヒズボラの衝突から雇用主が避難する際に、家事労働者が置き去りにされたり、家に閉じ込められたりしている」というものだ。レバノンで働く外国人家事労働者は17万人に上り、多くがエチオピア、ケニア、スーダンなどのアフリカや、スリランカ、バングラデシュ、フィリピンなどアジア出身の女性であるという。

 社説は国連の国際移住機関(IOM)の情報として、「路上などに置き去りにされた家事労働者らの多くが、アラビア語を話せないために安全な場所に避難することができていない」と伝えている。

 「不法就労者や、後見人制度の下で働く人々の状況は、さらに不安定だ。後見人制度では、雇用主がパスポートや公的書類を預かることが認められているからだ」

 こうした状況に対し、フィリピン政府は、海外フィリピン人労働者の自主的な帰国を促す警戒レベル3を発出した。だが、外務省の情報では、レバノン在住のフィリピン人のうち、帰国を希望した人はわずか1000人ほどで、その他の多くの人は強制退去となるレベル4への引き上げを望んでいないという。社説によると、外務省高官はその理由について「レバノンへの再渡航許可を得ることが難しくなるからだ」と説明している。

 だが、社説は、レバノンではフィリピン政府に対し「即時帰国を求める声も出ている」として、政府の対応の遅れを指摘する。社説によれば、今回のイスラエルとパレスチナの紛争により、フィリピン人の介護労働者4人がすでに犠牲になっている。  「その中には、高齢の患者と一緒に防空壕にとどまることを選んで犠牲になった33歳の女性もいる」という。社説は「フィリピン政府の怠慢によって、レバノンでさらに多くのフィリピン人が命を落とすことがあってはならない」と警鐘を鳴らしている。

戦争犯罪を見過ごした代償

 インドネシアもフィリピン同様、レバノンを含む中東地域に自国の労働者を多く送り込んでいる国だ。今回のイスラエルによるレバノン侵攻が開始されてから、10月10日時点で79人を帰国させている。

 インドネシアの英字紙ジャカルタポストは、ハマスによる奇襲からちょうど1年が経った10月7日付の社説で、「ネタニヤフの戦争犯罪」と題してイスラエルを強く非難した。

 社説はイスラエルについて「ネタニヤフ政権は昨年10月7日の攻撃以降、数百人のイスラエル人を人質にしたハマスの蛮行への対応として、この戦争を正当化している。しかし、4万人以上のパレスチナ人(その大半は女性や子ども)が殺害され、数百万人が避難を余儀なくされているという事実は、イスラエルがパレスチナを消滅させようとしているとしか思えない」と、強く批判する。

 また、その一方で、悪化する中東情勢に対し、「アラブ連盟とイスラム諸国会議機構(OIC)が沈黙を貫き、ガザ地区とレバノンで起こっている恐ろしい悲劇を無視している」と悲嘆し、「彼らは、地域に平和をもたらすために十分なことをしていない」と述べている。

 社説は、「ネタニヤフの戦争犯罪を阻止できなかった代償を世界が支払うのは、時間の問題である」と強く警告している。

 

(原文)

フィリピン:https://opinion.inquirer.net/177434/evacuate-ofws-out-of-war-zone

インドネシア:https://www.thejakartapost.com/opinion/2024/10/17/netanyahus-war-crimes.html

 

 

 

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