団結できぬASEAN諸国 「中国との距離感」に温度差
東南アジアで影響力を強める中国に対する石破首相の姿勢にも注目集まる
- 2024/11/16
石破茂首相は10月中旬、首相就任後、初めての外国訪問としてラオスへ渡り、東南アジア諸国連合(ASEAN)の一連の会合に参加した。持論の「アジア版NATO(北大西洋条約機構)」の構想を封印し、中国の李強首相との会談にも臨んだ。東南アジア諸国が直面する課題には、南シナ海問題をはじめ、中国との「距離感」が見え隠れする。
「アジア版NATO」、ASEANにとっては魅力なし
インドネシアの英字紙ジャカルタ・ポストは10月5日付で「アジア版NATOにノー」と題した社説を掲載した。この社説はASEAN首脳会議が開催される前の記事だが、「石破氏はASEANの会議で『アジア版NATO』という壮大な構想を推進しようとすることを避けるべきである」と述べ、石破首相の構想に真正面から異議を唱えた。
社説は、「日本経済の衰退とASEANの経済拡大が進むなか、石破氏にはASEAN首脳を魅了する提案はできないだろう」と、厳しい評価を下した。また、「石破内閣が短命に終わる可能性がある」という日本の世論に言及し、「ホスト国はいつまで続くかわからない石破氏に多くを期待することなく、礼儀としてあたたかく迎えるに過ぎない」と、冷めた見方をしている。
社説は、石破氏のアジア版NATO構想について、中国を含む「地域の緊張を悪化させるだけで、ASEANにとってそれほど魅力がない」と断じる。そのうえで社説は、「日本をはじめとする大国は、インド太平洋の中心が今後もASEANだと繰り返しているが、その真意は全く異なる。欧米諸国やオーストラリア、日本などは、ASEANが中国の台頭に対抗して闘うことを望んでいるのだ」との見方を示し、大国がASEANを「中国包囲網」の最前線に置こうとしている、と指摘した。
インドネシア紙から滲む中国への配慮
同紙はまた、10月14日付の社説で「ラオスに感謝、マレーシアを歓迎」と題し、ASEANが抱える課題について列記している。
社説はまず、ラオスがASEAN議長国として複雑かつ困難な国際課題に果敢に取り組んだことを称賛した。そして、次期議長国となるマレーシアに期待を寄せた。
次政権に引き継がれるべき主要な「未決事項」として社説が上げたのは、まずミャンマー問題だ。社説は「これまでASEANが固執してきた国軍勢力との“5項目の合意”に必ずしもこだわるべきではない」と述べ、中国やインドなどの大国を巻き込んだ積極的な関与が必要だと主張した。一方で、中国との関係については南シナ海領有権問題を挙げたが、ややトーンダウン。共同声明の中で各国首脳が「南シナ海の状況を複雑化・緊迫化させる可能性のある、領有権を主張するすべての国は行動を自制することが重要」だと強調した、という事実を確認するにとどめた。
「見て見ぬふり」に憤るフィリピン
「中国とのバランス」に配慮するインドネシアとは対照的に、中国との対立姿勢を強めるのはフィリピンだ。デイリーインクワイアラー紙は10月15日付で「ASEANは見て見ぬふりで、何も口に出さない」と題した社説を掲載し、中国に対して沈黙するASEANを批判した。
社説は、ラオスで実施されたフィリピンとベトナムの首脳会談について取り上げ、「会談が開かれた背景には、南シナ海での中国との対立という共通の状況がある」と解説した。さらに、「北の強大な隣国からの嫌がらせや威嚇の矢面に立たされている東南アジアの2カ国間がこれほど良好な関係が築いたことはいまだかつてなかった」と述べ、関係性の深化を歓迎した。
しかし社説は、「ベトナムとフィリピンが不安定ながらも友好関係を深めつつある一方で、他の10カ国のASEAN加盟国は中国の敵対的な行動に対して無関心なままだ」と憤る。
社説は、ASEAN加盟国に対し、「いじめに立ち向かえ」と求める。「見て見ぬふりをし、口を閉ざすことで、ASEANは信頼性を失うリスクがある。ASEANがこの地域における平和を推進したいのなら、臆病な姿勢を捨て、近隣のいじめに対して一丸となって立ち向かわなければならない」
(原文)
インドネシア:
https://www.thejakartapost.com/opinion/2024/10/05/no-to-asias-nato.html
https://www.thejakartapost.com/opinion/2024/10/14/thanks-laos-welcome-malaysia.html
フィリピン:
https://opinion.inquirer.net/177563/asean-sees-no-evil-speaks-no-evil