日向史有監督『東京クルド』が描く絶望の国、日本
記号やカテゴリーとしてではなく、「存在」を伝えたい

  • 2021/8/13

現実と乖離した入管制度の精神性

 今、入管への関心が高まっている。名古屋入管に収容中のスリランカ人女性、ウィシュマ・サンダマリさんが今年3月に亡くなった事件を機に、「難民認定手続き中の外国人でも、申請回数が3回以上になれば強制送還できるようにする」という難民法の改正案への批判が高まったが、国会で与野党の激しい攻防が行われた末に採決が見送られた。

 本作品は、この動きを一過性のブームにしないために、入管問題への関心が高まっている間に公開すべきという判断から緊急公開された。おりしも6月には、ワールドカップ出場のために来日していたミャンマー人サッカー選手が祖国でクーデターを起こした軍への抗議の意志を表す三本指を立てて帰国を拒否し、難民認定を申請。異例のスピードで審議され、8月中旬に正式に認定が決まった。7月にも、東京オリンピックに出場するために来日していた東欧ベラルーシの陸上女子選手が強制帰国を拒否しポーランドに亡命するなど、祖国への帰国が困難な外国人に日本としてどう対応するかが問われる事態が続いている。

ラマザンとオザンは、トルコにいた時からの幼馴染だ (c) 2021 DOCUMENTARY JAPAN INC.

 他方、出入国在留管理庁の統計によると、2020年に退去強制手続きなどが執られた外国人の不法就先のうち、最も多いのが農業で、次いで建設業、そして工場労働と続く。難民保護と日本の労働力不足の問題をまったく同じ土俵で語るわけにはいかないものの、日本の若者が敬遠する仕事を、働くことが許されていない非正規滞在の人々が担っているという不都合な真実から目をそらしている限り、「日本人による和と能率の調和を前提とし、外国人はその環境を破壊する存在だという精神性の下で維持されてきた入管制度と現実の間のはなはだしい乖離」(日向監督)は、埋まるべくもない。その意味で、「非正規滞在者が増えるから犯罪が増えるのではない。排除して苛烈な環境に置かれると負の連鎖が起こるのです」という監督の言葉は、重い。

 8月初旬、埼玉県蕨市を訪ねた。国を持たないクルド人の故郷であるクルディスタンと、蕨を掛け合わせて「ワラビスタン」と呼ばれ始めたこの地には、在日クルド人の6割が住み、コロナ禍以前は、毎年3月に市内の公園で開かれていた新年祭「ネウロズ」に約1000人のクルド人が集まっていたという。ラム肉を使ったトルコ料理のケバブ屋や、イスラム戒律にのっとったハラル認証を示す看板があちこちに掲げられ、中華料理屋や韓国食材店も立ち並ぶ蕨の街は異国情緒あふれ、コンビニや公園のベンチ、信号待ちの交差点では当たり前のようにクルド人の姿を見かけた。その一人一人が、オザンやラマザンのような物語や葛藤を抱えているはずだ。彼らが心穏やかに未来を夢見る日々を手にできるか否かは、日本が今後、世界とどう向き合うかという問いに直面している我々にかかっている。

 

【映画『東京クルド』 公式トレーラー】 

[東京]渋谷 シアター・イメージーフォーラム、[大阪]第七藝術劇場 などで全国順次公開中

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