ケニア農業の現在地とこれから
現場主義の先に「巨人」がみたもの
- 2019/10/31
半世紀にわたる道のり
ティモシー氏が指摘するように、ケニア農業には、最先端のテクノロジーが受け入れられる素地が十分にある。近年では、独自の技術を持ち込むスタートアップ企業も次々とユニークな試みを始めており、新たな競合が続々と市場に参入している。そして、動きが活発なケニアの農業市場には、複数社の日系企業も参画に向けて準備を進めている。
その一方で、気候変動リスクや人口の増加による土地の細分化、企業や政府による土地の収奪(Land grab)など、問題の規模が拡大しているのも事実だ。ケニア農業のポテンシャルは多くのステークホルダーが認めているところだが、それが有効に活用されていないという指摘も多く聞かれる。
一部の大手企業や、スタートアップ企業がテクノロジーを活用したスマート農業を標榜(ひょうぼう)し、若者に「農業はイケてる産業だ」と思わせるなど、農業振興に向けた新たな試みも次々と生まれている。例えば、首都ケニアにあるジョモケニヤッタ農工大学は、マッシュルームをはじめ、新たな作物の栽培と普及に力を入れている。しかし、その一方で農作物の生産が人口増加のスピードに追い付かず、食糧輸入はいまだ増加傾向にあるのが実態だ。長年使い続けた農地の劣化に頭を悩ませる農家も少なくない。
新たな課題が次々に噴出し、好材料と懸念材料がめまぐるしく表れる今だからこそ、ケニアの農業は「玉虫色」であることを十分に理解し、ステークホルダーがそれぞれ果たすべき役割を見出す必要があるのかもしれない。
半世紀以上にわたってケニア農業に重要な役割を果たしてきたアミラン社は、次の半世紀にどのような現場を歩いていくのだろう。「巨人の肩に乗る」とは、先人の知見を紐解き、新たな発見につなげることを表すたとえだが、アミラン社という「巨人」の肩の上から見える景色は、必ずや新たなケニア農業像を描くきっかけを多くの人々に与えるに違いない。今後も、同社の動きに注目したい。