ミャンマー・クーデター「それでも私はデモに行く」
熾烈な弾圧の中で平和と民主主義を求め続ける若者の思いを動画で配信
- 2021/3/15
軍事クーデターの発生から1カ月半が経つミャンマーで、自由と民主主義を求めるデモ隊への弾圧が熾烈を極めている。毎日のように多くの市民が凶弾に倒れ、暴力行為とともに逮捕・拘束される中、不服従の声はいや増すばかりだ。軍や警察を前に臆することなく反独裁のシンボルである3本指を突き上げ、丸腰のまま平和と民主主義を求め続ける人々の思いとは。デモ参加者に自らインタビューし、動画を公開したPolygonzのコミンズリオ氏が、企画の狙いと印象を振り返る。
3日間で約2500回再生
今回、縁あってデモ隊に参加しているRosyさん(仮名)に思いを伺う機会に恵まれたことを嬉しく思っている。インタビュー動画を「Polygon(多面体)な社会・人にフォーカスしたソーシャルグッド・カルチャーを発信する」ことを目指すPolygonzのYouTubeチャンネルで3月12日に公開したところ、3日間で約2500回再生されている。
私たちPolygonzは、時代を切り開く社会起業家や著名人から、自分たちの手で未来を作りあげていくZ世代まで、さまざまな活動に取り組んでいる人々の話を伝えることによって、視聴者自身のアクションにつなげたいと考えている。今回のインタビューの狙いは、現在、ミャンマーではこんなに若い女性が自由を取り戻すために必死に闘っている事実を知ってもらうことで、「日本人としてどう支援できるか」を考えてもらうのはもちろんだが、視聴者自身の中に新しい考え方が芽生えるきっかけを提供し、ゆくゆくは「感化」していきたいというところにあった。
リーダー不在の新たな闘い方
Rosyさんの言葉は一貫して当事者としての強い想いにあふれ、心打たれるものだったが、特にリーダー不在の闘い方に関する話が印象的だった。
世界に目を向けると、歴史的な革命や民主化を要求する動きには、必ずと言っていいほど象徴的な存在がいる。例えば、2019年から2020年にかけて香港で続いた民主化デモは、ジョシュア・ウォン(黄之鋒)氏やアグネス・チョウ(周庭)氏の下に人々が団結したし、ロシアでは野党勢力の指導者であるアレクセイ・ナワリヌイ氏が、反体制派の「顔」だ。
歴史を遡れば、1900年代半ばに米国で盛り上がったアフリカ系米国人の公民権運動はキング牧師の名で知られるマーティン・ルーサー・キング・ジュニア氏が率いていたほか、アフリカ系米国人のイスラム教徒の牧師だったマルコムX氏や、インド独立の父と言われるマハトマ・ガンジー氏、南アフリカ共和国で反アパルトヘイト運動に身を捧げたネルソン・マンデラ氏などもよく知られている。
しかし、Rosyさんによると、今回のミャンマーのデモ隊にはそうした存在がいない。その代わり、さまざまなインフルエンサーがSNS上に入れ替わり立ち代わり現れては、アイデアを投げ、フォロワーがそれを実行したり拡散したりしている間に身を隠す、ということが繰り返されているのだという。まさに、SNS時代ならではの闘い方だ。
また、ロヒンギャの問題について率直な意見を聞かせていただいたことにも感謝している。「これまでロヒンギャが国民と認められず、迫害を受けてきたことが、今、周りで話題になることはあるか」という質問は、ビルマ族のRosyさんにとって、さぞ答えづらいものだっただろう。だからこそ、「私たちは軍によって操作された多くのフェイクニュースや虚偽の情報を目にしていたため、ロヒンギャの人たちの置かれていた状況を理解していなかった。軍の標的が私たちに向けられた今になって、ようやく真実を知った」というRosyさんの言葉には、胸を突かれた。
「平和ボケしている」と言われる日本でも、いつ同じようなことが起きても不思議ではない。実際、東日本大震災や新型コロナウイルスの感染拡大では、これまで当たり前だと常識や前提が、ある日突然、すべて崩れ、社会が大きく揺らいだ。日常的に納得できるまで考え、疑い、調べ、そして行動することの重要性を改めて感じた。
声を届けてアクションを喚起
今回、インタビュー動画を見ていただいた方々からは、「興味深い」「もっと知りたい」という反響があり、手応えを感じている。時事的な内容である上、デモという実際のアクションを起こしている人のリアルな思いを伝える内容だからではないかと考えており、こうした生の声を届けるコンテンツの意義を実感した。
コロナ禍に見舞われた2020年は、「もう我慢できない!既得権益をひっくり返すのは我々だ!」という市民の団結が世界中に広がった。前述の香港をはじめ、ベラルーシ、タイ、アメリカのBLM、ロシアなどでは、人々が実際に集まり声を上げたが、それ以外にも、環境破壊への反対運動、性的マイノリティーや貧困層のセーフティネット獲得に向けた運動など、多くの動きがみられた。
Polygonzでは、これからも、「今」「現在」「直接的に」実際のアクションにつなげている人々の声を積極的に届けていきたいと考えている。