日系マイクロファイナンス機関がラカインに進出
自立への願いを小規模金融に乗せて

  • 2019/7/21

新規ビジネスで描く家族の幸せ

 PACTからマイクロファイナンスを借りるようになって、チンオーインさん一家の生活は大きく変化した。まず、高床式になっている母屋の1階部分を網で囲い、養鶏ビジネスを始めた。借入金でヒナを仕入れ、40日かけて成鳥に育てて販売すると、その代金で次のヒナを仕入れるのだ。

母屋の1階で養鶏ビジネスを始めた。40日かけてヒナを育て、市場に売る(筆者撮影)

 精米機も購入した。彼女の家に1台、隣に住む妹家族の家に1台。そうして始めたのが、近隣の農家からモミ付きのコメを買い取り、穀を取り除いたり、ぬか層を除去したりして精米し、市場に売るビジネスだ。人の背丈よりも大きな木製の機械の代金と、それを置くために母屋の隣に建てた納屋の工事費は、合わせて160ラック(約113万円)もかかったが、良い時には月に6ラック程度(約4万3,000円)の収入が入り、その一部を元金と利子の返済に充てているという。返済は、隣に住む妹家族や親戚ら5人で連帯責任を負っている。

老舗マイクロファイナンス機関PACTからの借入金で購入した脱穀機。価格は約70ラック(約50万円)(筆者撮影)

 MJIから新たな融資を受けようとしているのは、軌道に乗り始めた新しいビジネスを拡大したいためだ。「ゆくゆくは米穀店を開き、脱穀したコメをここで販売したい」とチンオーインさんが言えば、夫も隣で「資本が多ければ多いほど、顧客も増えるはず」とうなずく。

 借り先が増えれば、借入金も増えることにもなるが、夫婦に不安はない。これまで2週に1度、PACTのローンを遅延することなく返済してきたことで自信がついた。傍らでじゃれ合う9歳と5歳の兄妹の髪を時折、愛しそうになでてやりながら、「もっと事業を拡大し、この子たちにいい教育を受けさせたい」とほほ笑んだ。

脱穀機の前で家族と。隣に住む妹(右端)と共に5人で返済の連帯責任を負っている(筆者撮影)

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