日系マイクロファイナンス機関がラカインに進出
自立への願いを小規模金融に乗せて

  • 2019/7/21

激化する融資競争

 もっとも、この地も決してブルーオーシャンではない。他のビジネスと同様、マイクロファイナンス業界も、顧客の獲得をめぐる競争は激化の一途をたどっている。

MJIのタンドゥエオフィスの様子。支店長兼エリアマネージャーのタンタイウーさんがスタッフのパソコンをのぞき込みながら指導している(筆者撮影)

 ミャンマーにおけるマイクロファイナンスの歴史は浅い。長年にわたる軍政下で金融の国際取引がなかったミャンマーに国連開発計画(UNDP)の主導でマイクロファイナンスが導入されたのは、1997年のこと。その後、2011年の民政移管を機に、ミャンマー政府が貧困対策の一貫としてマイクロファイナンス法の整備に乗り出し、市場開放も加速。外資によるマイクロファイナンスも認められるようになった。

 圧倒的なシェアを誇る老舗のPACTをはじめ、いまや175(2018年10月現在)のマイクロファイナンス機関がミャンマー国内で活動しており、政府は行き過ぎた貸付や多重債務を抑止するため、各機関の営業エリアを承認制にして、進出をコントロールしようと乗り出している。ラカイン州の営業許可を取得したMJIも、いち早く営業を開始していたPACTを他機関と共に追いかける立場であり、厳しい状況が待ち受ける。

村の女性たちに向かい、MJIの融資ルールについて熱い口調で説明するタンタイウーさん(筆者撮影)

 それでも、タンタイウーさんをはじめ、タンドゥエ支店のスタッフたちの表情が明るいのは、マイクロファイナンスには人生を切り開く力があると信じているからだ。借入金は、いわば、新しい挑戦を始めるシードマネーだ。借入金を適切に使わなければ、返済が滞り、いとも簡単に債務地獄に陥るリスクがある。「だからこそ、われわれMJIには大きな責任があるのです」という言葉に、人々の挑戦を成功させてみせるという決意がにじむ。

タンタイウーさんの説明を真剣に聞き入る顧客の女性たち(筆者撮影)

 3日後の朝、タンタイウーさんは、ある家の庭先で、50人ほどの女性顧客たちに向かって、融資の受け方や借入金の使い方、返済のルールを一つずつ説明していた。次第に声が大きくなり、説明も熱を帯びていく。そんなタンタイウーさんを女性たちがじっと見つめ、時に復唱したり、メモを取ったりしながら聞き入る。世界中の注目を集めるこの地で、より良い暮らしと未来をつかみたいという人々の普遍的な願いを後押する日系企業の挑戦が、静かに始まっている。

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