ネパールの医療従事者に適切なケアを
感染リスクに給料の未払い―「偽りの約束」を地元紙が糾弾

  • 2021/6/15

新型コロナウイルスのインド型変異株の出現により、南アジアでは特に激しい感染者の増加がみられる。ネパールもそんな国のひとつだ。ネパールの英字紙カトマンドゥ・ポストの5月25日付社説では、疲弊する医療従事者への思いがつづられた。

ネパールでは医療従事者が適切な処遇されていないことが深刻な問題になっている(c) Clay Banks / Unsplash

急増する感染者

 ネパールの新型コロナ感染者は今年に入ってから抑制傾向が続き、1日あたりの新規感染者数が100人を下回ることもあった。しかし、4月に入ると新規感染者が急増し始め、5月12日にはその日だけで新規感染者が9000人を超えた。
 「新たに感染者数と死者数が増加し始めて1カ月が過ぎた。新たな変異株によってネパールは混乱に陥り、医療事情が悪い地域では、感染を食い止めて人々の命を救うことが特に難しくなっている。私たちの知る限り、これは最悪の人道危機だ。政府の無策と事前の準備不足によって、事態はさらに深刻になった。ベッドが足りず、医療用酸素も足りず、医療スタッフも不足している。感染拡大の第2波に襲われているというのに、政府はいまなお正しい優先順位を考えられていないため、人々は混乱し、自分で自分の命を守るしかない」
 社説が描写する医療の現場は、残酷で悲惨だ。
 「私たちは5月の一カ月間、病院の外で苦しそうに息を切らせる感染者や、集団墓地に埋葬される遺体に最後の敬意を払う兵士たちの姿を毎日のように目の当たりにしてきた」
 そして、現場で働く医療従事者に思いをはせる。
 「新型コロナ患者の病棟では、生きるための闘いが終わることなく続いており、恐怖や燃え尽きた気持ちやトラウマや悲しみが日常の光景になっている。それでも医療従事者たちは、非常に厳しい状況下で治療の最前線に立ち、自分自身も感染するかもしれないという恐れとプレッシャーの中、人々を苦しみから救い、命を守ろうとしている」

無策の政府

 社説は、この新型コロナの感染拡大によって我々が医療従事者の大切さを改めて認識した、と指摘する。どんなに立派な医療システムがあっても、彼らがいなければ人々の命を救うことはできない。
 「自分自身を感染のリスクにさらしてでも、という彼らの献身的な犠牲がなければ、ネパールの状況はもっとひどいものになっていただろう」
 そのような医療従事者の苦悩に対し、他の国々では、医療従事者が可能な限り安全に任務を遂行できるように政府が防護用品を十分にそろえられ、経済的にも精神的にも不安が少しでも低減できるような施策が執られているにも関わらず、ネパール政府は十分な対応をしていない、と社説は指摘する。オリ政権も医療従事者や最前線で働く人々を経済的に支援するとアナウンスしたが、いまだ実施されていないどころか、ヘルスワーカーたちに「手袋を“大切に”使うように」との指示を出したという。
 「国はどれだけヘルスワーカーの苦悩を無視し続けるのだろうか。ヘルスワーカーたちは、感染の危険にさらされているのみならず、給料や手当すら支払われないことがたびたびある。これでは、経済支援のアナウンスはその場しのぎで出されたものに過ぎず、偽りの約束だったと言われても仕方がない。政府は今すぐに給与や手当の未払い分を支払い、彼らが安心かつ安全にプロとして働ける環境を確保するよう力を尽くすべきだ」
 ネパールでは、新型コロナの手当にあたった医療従事者が数千人規模で感染し、亡くなった人もいる。
 「このような事態は、家族や友人にとって筆舌に尽くせない悲しみであると同時に、私たちの社会全体にとって大きな損失だ。政府はいかなる言い訳もせず、新型コロナの感染拡大を阻止し、人々の命を救うためのかけがえのないパートナーである医療従事者たちに適切な対応をするべきだ」
 
(原文:https://kathmandupost.com/editorial/2021/05/25/care-for-comrades)

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