「台湾有事」に対するアジアのまなざしを読む
シャングリラ会合を報じるシンガポールとパキスタンの社説から

  • 2022/6/25

 岸田文雄首相は6月10日、シンガポールで開かれた「アジア安全保障会議(シャングリラ会合)」で講演し、日本の防衛力について「5年以内に強化し、防衛費の相当な増額を確保する決意だ」と語った。

 シャングリラ会合は毎年、アジア太平洋地域の防衛問題を話し合うために欧米やアジア各国から、国防相や防衛当局関係者らが参加する。英国の国際戦略研究所(IISS)が主催している。2020年、2021年とコロナ禍で中止されており、今回は3年ぶりの開催となった。

シンガポールで開かれたアジア安全保障会議(シャングリラ会合)でキーノートスピーチを行う岸田文雄首相(2022年6月10日撮影)(c) AFP/アフロ

人流を含む経済対策で信頼関係の回復を

 6月11日付のシンガポールの英字紙ストレーツタイムズによれば、今年の参加者は42カ国からの500人以上。このうち60人以上が閣僚だという。日本からは岸田文雄首相、岸信夫防衛相らが参加した。

 外務省の発表によれば岸田首相は講演で、普遍的価値を重視しながら徹底的な現実主義を貫く「新時代リアリズム外交」を展開し、その上で5本柱から成る「平和のための岸田ビジョン」を進めていく、と述べた。

 この「岸田ビジョン」をシンガポール紙はどう見たのか。

 6月14日付のストレーツタイムズは、「日本の新時代のための外交」と題して社説を掲載した。社説は、日本の防衛力増強が、東シナ海や台湾問題、北朝鮮による度重なるミサイル実験、さらにはロシアによるウクライナ侵攻で「喫緊の課題になった」と、指摘する。

 社説は、「2018年にインド太平洋方面派遣訓練部隊の護衛艦『かが』がスリランカに寄港した時、東南アジア諸国にはほとんど懸念を示す声が上がらなかった」として、東南アジア諸国が日本の防衛力増強に強い拒否反応は示さなかった、と述べた。

 しかし一方で、「日本は過去の戦争をめぐり長く続く歴史的な問題に決着をつける義務がある」と指摘する。第二次世界大戦時の日本の侵略行為は、東南アジアの人々の心に、今も傷を残しているのだ。社説は、日本と東南アジアの距離を縮めることに役立つこと、として、日本からの直接投資や、外国人の入国規制を緩和して往来を早期に盛んにすることなど、経済対策を挙げている。

 これらの経済施策が、歴史問題を直接解決するという意味ではないだろう。しかし、日本が防衛力をスムーズに増強したいと考えるのであれば、東南アジア諸国との信頼関係の回復は重要なことだ。その最も分かりやすい形が、人流を含む経済対策だ、という意味であろう。

米中対立のはざまで「踏み絵」を危惧

 パキスタンの英字紙ドーンも6月14日付の社説で、「台湾危機」と題してシャングリラ会合を採り上げた。

 同紙は、中国と台湾の緊張が高まっているとし、バイデン大統領が5月23日に日本での記者会見で、台湾が攻撃された場合は防衛のため軍事介入する、との考えを示したことを指摘。シャングリラ会合でも米国と中国の防衛担当者の間で「言葉の応酬があった」とした。その上で、「国際的な場での言葉のつばぜり合いは、武力衝突につながりかねない」と懸念を示した。

 パキスタン紙が台湾危機に関心を持つのは、パキスタンが中国と「政治的、経済的あるいは戦略的に深い関係を維持している」からだ。そして同時に米国とも、「敵対することはできない」関係にある、とする。

 ロシアのウクライナ侵攻をめぐっては、立場を明確に打ち出せない国が多くある。パキスタンもその一つだ。ロシアや中国とエネルギーを含む経済や軍事で深いつながりを持ちつつも、米国とも関係を維持しており、ロシア側に与するまでには振り切れない。そうした国々にとって、「台湾危機」は、さらに明確に「中国か米国か」を選ばされる踏み絵となる可能性がある。

 ウクライナ侵攻を機に、世界各国それぞれが自国の安全保障について見直しを迫られている。願わくば、全ての為政者に「どんな政治体制の国であっても、平和と安定の維持が何よりも重要だ」というストレーツタイムズ紙の言葉を共有してほしい。

 

(原文)

シンガポール:

パキスタン:

 https://www.dawn.com/news/1694735/taiwan-tensions 

 

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