パキスタンが精神障害者の死刑制度を禁止
死刑制度を巡る議論に一石を投じる最高裁の判断

  • 2021/3/2

 日本をはじめ、世界の多くの国々でいまなお死刑制度。他方、その是非をめぐりさまざまな議論も続いている。2月12日付のパキスタンの英字紙ドーンは、社説でこの問題を採り上げた。

パキスタンではこのほど精神障害者の死刑判決を禁止した (c) Muneer ahmed ok /Unsplash

 

「死刑大国」で始まった見直し

 パキスタンでは2009年より国法上の死刑執行が停止されていたが、2014年にイスラム過激派による学校襲撃事件が発生したのを機に再開された。以来、執行が続いており、「死刑大国」とも言われている。

 そんな同国で、このほど大きな変化があったという。

 「死刑判決を出しても、正義の目的は達成できない」。自身に課せられる罰の理由を理解できない精神障害者を死刑に処しても良いのか、という問いに対し、パキスタンの最高裁判所が2月10日に下した判断である。「この判決に基づき、最高裁は2人の死刑囚の判決を翻し、うち1人については診断書を含む嘆願書を提出するよう指示した」と、社説は伝えている。

 また、精神障害者に対する刑事手続き全般についても見直されることになったという。

 「最高裁は、捜査、裁判、控訴など、刑事訴追に関する現行の一連の手続きが、パキスタンで最も貧しく、弱い立場にある人々の権利を損なう可能性があると指摘。法と規則を見直すように指示するとともに、現在服役中の人々に精神障害があるかどうか調査し、適切に対処するシステムの構築を指示した」

 その上で社説は、今回の裁判所の判決を受け、死刑囚への対応も変わりつつあると指摘し、次のような事例を挙げる。

 「これまで半世紀近く死刑囚として服役していた2人の囚人が、治療を受けるために精神病棟へと移された。他方、死刑囚として16年間過ごし、最期は刑務所の病院のベッドに縛りつけられたまま2019年に死亡した囚人もいる」

 こうした状況自体が、驚くべき人権侵害だと言えよう。

報復行為の連鎖を断ち切れ

 社説によると、パキスタンには現在、約4,000人の死刑囚がいるという。日本の死刑囚が現在110人であることと比較すれば、いかに多いかは明白だ。

 「パキスタンは、おそらく世界でも最も死刑囚が多い国だ。2014年に死刑執行の停止を解除して以来、500人以上を処刑している」と、社説は指摘する。

 その上で社説は、「刑が執行された後で冤罪が明らかになった兄弟や、17歳の時に拷問されて自白を強要され、死刑判決を受けて21年間、死刑囚として収監されてから釈放された者もいる」と、憤りとともに伝えている。

 精神障害者の死刑執行を禁じた今回の最高裁の判決について、社説は「法律家や人権擁護グループ、精神科医らが10年以上にわたって運動し続けてきた成果であり、真に歴史的なことだ」と評価した上で、イスラマバード高裁が2019年に刑務所の改善委員会を設置し、嘆願や恩赦に関する手続きの合理化に着手したにも関わらず、政府が2014年以降、死刑執行の対象とならない人々への恩赦を実施していないことを指摘。「今回の判決は、死刑制度そのものを見直す一つのきっかけとなるだろう」「犯罪を抑止するための最も合理的で効果的な方法は、報復行為の連鎖を生む死刑制度を廃止することだ」と、断言する。 

 パキスタン社会が、これからどう変化していくのか。その行方次第では、死刑制度が残る他の国々にも影響があるかもしれない。

 

 (原文: https://www.dawn.com/news/1606882/a-historic-ruling)

 

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