サウジアラビアの外相がパキスタンを訪問
パ地元紙は「中立を貫き国々のつなぎ役に」と訴え

  • 2021/8/20

 アフガニスタンに駐留する米軍は、同時多発テロ事件から20年となる今年9月までに完全撤退を計画し、撤収準備を進めていたが、7月2日、首都カブール近郊にあるバグラム空軍基地からすべての部隊を撤退させ、アフガニスタン側に基地を引き渡すと、8月には反政府武装勢力タリバンが首都カブールを掌握した。7月29日付のパキスタンの英字紙ドーンは、サウジアラビア外相の公式訪問を受けて、両国関係や揺れる地域の情勢について社説で採り上げた。

アフガニスタンの首都カブールで記者会見を開いたタリバンの広報官 (2021年8月17日撮影)(c) Abaca/アフロ

揺らぎながら続く二国間関係

 7月27日、サウジアラビアの外相が代表団と共にパキスタンを訪れ、首相、外相、陸軍司令官と会談した。社説は「サウジアラビアとパキスタンの関係は、これまで地政学的にさまざまな嵐に見舞われてきたが、数十年にわたって続いている」と振り返る。
 地政学的な嵐の直近の例として社説が挙げるのは、「イエメン内戦、イラン問題、そしてカシミール紛争」である。これらの問題をめぐって両国関係は一時的に緊張下に置かれたが、立場の違いを乗り越えて外交チャンネルを通じて対話を続けたことで、「断絶することなく、今日に至っている」と、社説は指摘する。なによりこのような高官の公式訪問こそが、両国間の関係が継続している証だという。
 会談の内容は、すべて明らかになっているわけではない。社説は、「公式には経済や地域問題を協議したとのことだが、具体的に両国代表が何を語り合ったか推測することは難しい。急速に変化するアフガニスタン情勢も話題になったのは間違いないが、今回の訪問は、関係の正常化が主目的だったようだ」との見方を示した。

イスラム社会に影響をおよぼすアフガニスタン情勢

 両国関係に吹き荒れた「嵐」と表現された火種の一つに、カシミール問題がある。インドは2019年、ヒンドゥー至上主義を掲げるモディ首相の下、インド国内で唯一、イスラム教徒が多数派を占めるジャンムー・カシミール州の特別自治権をはく奪し、再編成法によって廃止したため、これに抗議する住民と治安部隊とが衝突。報道によれば、住民への暴行などもあったという。
 こうした状況を受け、社説は「パキスタンのクレシ外相によれば、サウジアラビアが主導するイスラム協力機構(OIC)が2020年、カシミール問題に進展がないことに対して怒りを爆発させたことを受け、首相と陸軍総司令官がリヤドを訪れ、事態への対応を求めたという。サウジアラビアのファイサル外相は今回の訪問中、“カシミールであろうと、パレスチナやイエメンであろうと、地域の問題にともに対応することが必要だ” と発言した」と報じた。
 さらに社説は、「パキスタンとサウジアラビアは、アフガニスタン情勢に対しても戦略を共有しつつ取り組まなくてはならない。なぜなら、アフガニスタン情勢はイスラム情勢、なかでもパレスチナとカシミールに影響を及ぼすからだ」と、主張。カシミール問題は、インドとパキスタン両国の問題にとどまらず、イスラム世界全体に影響する問題だという見方を示し、「こうした<地域>の問題には、イスラム諸国がお互いに橋渡しをしたり、声を挙げて国際社会に訴えたりすることが必要だ」として、次のように訴える。
 「パキスタンは、全ての国々、特にイスラム社会の国々や近隣諸国との関係を良好に保つために外交努力を続けなくてはならない。例えば、われわれはサウジアラビアとイランをつなぐ役割を担うことができる。なぜなら、パキスタンはサウジアラビアと良好な関係を有しているうえ、イランとは国境を接しており、歴史や文化のつながりが深いからだ。その一方で、サウジアラビアは、イスラム社会の一員として、カシミールで住民が虐殺されたことに批判の声を挙げることができる」
 その一方で、「宗派対立や地域紛争の泥沼に巻き込まれないようにする冷静な判断も重要だ」と主張。2015年からサウジアラビア主導で続いているイエメン内戦を挙げ、「パキスタンがこの戦争への参加を拒んだ際、両国の関係は冷え込んだものの、今、振り返ると、この泥沼から距離を置いたことは正解だった」と述べ、「パキスタンは、イスラム社会の中で中立の立場として、立場を異にする国々をつなぐ役割を果たすべきだ。宗派対立や地域紛争に陥ることは、だれの利益にもならない」と訴える。
 アフガニスタンでは8月中旬、反政府武装勢力タリバンが首都カブールに侵攻し、政権が事実上崩壊した。他方、1940年代から続くカシミール紛争や、2015年から続くイエメン内戦など、南アジアや中東地域には、終わらない紛争が数多い。紛争が長引けば長引くほど犠牲者は増えるにも関わらず、紛争は当事者以外にはすぐに忘れ去られてしまう。今、この瞬間にも、世界では理不尽に命が奪われ続けていることを胸に刻みたい。

(原文https://www.dawn.com/news/1637513)

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