コロナを抑制してもポリオを根絶できないパキスタン
チームワークの欠如が阻む道のり
- 2021/1/4
ポリオは、幼い子ども、特に5歳以下がかかる感染症で、手足の筋肉などに麻痺を起こす病気である。多くの国ではワクチン接種のおかげでポリオが根絶されたため、世界で今なおポリオの感染が続くのはアフガニスタンとパキスタンだけになった。パキスタンの英字紙ドーンは、12月30日の社説でこの問題を採り上げた。
ポリオ感染が続くパキスタンとアフガニスタン
世界保健機関(WHO)は2020年8月、ナイジェリアで野生株のポリオウイルス感染が終息し、アフリカ大陸でポリオが根絶したことを宣言した。一方、今なおポリオ感染が続くパキスタンでは、これまで続いていたワクチン接種の取り組みが、新型コロナウイルスの感染拡大により活動停止を余儀なくされていた。現在、接種活動は一部、再開されたものの、ポリオの発症は続いているという。
社説は、独立監視委員会が出したポリオ根絶に関する報告書の中から、特別首相補佐官を務める保健分野の専門家、ファイサル・スルタン博士が「もしポリオ対策のための資源をコロナウイルス対策に活用して効果的なのであれば、なぜポリオは根絶できないのだろうか」という疑問を投げかけたの上で、「これは、政府が解き明かさなくてはならないミステリーだ」と、述べている。
パキスタンでは、新型コロナウイルスの新規感染者が2020年6月をピークに抑制傾向にあり、最悪の状況は回避できたとされている。ポリオワクチン接種の仕組みがコロナの感染予防に活用されたのに、なぜコロナは抑制に成功し、ポリオはできないのか、というのが博士の問いかけだ。
監視委員会が提示するヒント
その上で社説は、監視委員会自身がその問いかけに答えるさまざまなヒントを提示していると述べ、ポリオ国家戦略アドバイザリーグループが一度も会合を開いていないこと、隔週で開かれるタスクフォースが連邦政府と地方行政との間で連携がとれず、効果的なキャンペーンが実施されていないこと、そして官僚主義的な確認手続きが中央と地方との連携を妨げていることなどを挙げた。さらに、「監視委員会の報告書は、保健当局が過剰な負担を強いられていることに理解を示しながらも、チームワークの欠如によってポリオ根絶への道が遠ざけられてしている」と、指摘した。
さらに、冒頭のファイサル・スルタン博士のコメントについては、「新型コロナウイルスの感染対策とポリオ対策にはさまざまな違いがある」と述べ、コロナ対策は政府が対策を準備する時間があったこと、予防策を国民に提示することで感染回避がある程度可能だったこと、そして、これまで何十年もかけて構築されたポリオワクチン接種の人材インフラがコロナ対策の啓発に効果的だったことを挙げた。さらに、新型コロナの予防策について反対意見は生まれにくく、政府のメッセージが確実に国民に届いたことも指摘した。
社説によれば、パキスタンは2018年に一度、ポリオがほぼ根絶されかけたものの、失敗に終わったという。
今回の新型コロナの感染拡大がこのまま終息に向かえば、パキスタン政府はむしろ、コロナの経験から、ポリオ根絶に向けた取り組みの改善点を得ることができるのではないだろうか。世界中の人々に甚大な打撃を与えている新型コロナだが、そこから得られる教訓は、意外にもポリオ根絶への道を開くかもしれない。
(原文: https://www.dawn.com/news/print/1598636)