「米国はアフガン政策の失敗を責任転嫁するな」
パキスタンの英字紙が米国の制裁要求を厳しく批判

  • 2021/10/25

 イスラム主義組織タリバンが8月、アフガニスタンで政権を掌握した。駐留米軍の撤退の完了を受け、アジア内陸部の地政学的に重要な位置にあるこの国をめぐって有力国のにらみあいが始まっている。パキスタンの英字紙ドーンはこの問題を社説で採り上げた。

20年にわたりアフガニスタンに駐留していた米軍の撤退に伴い、現地でタリバンが復権した (c) ロイター/アフロ

米国を強く批判

 9月27日、米上院にアフガニスタンを支配したタリバンやタリバンを支援した人々への制裁を求める法案が提示された。社説によると、法案は、米国がタリバン政権を崩壊させた2001年からの20年間、国家、非国家かかわらず、アフガニスタンの親米ガニ政権を崩壊させた反政府組織を支援したものについての報告を求めている。その支援者の中には、パキスタン政府も含まれているという。
 社説は、「アフガニスタンで8月、米国が後ろ盾となっていた政権が崩壊したことは、米国史上最も長い戦争の、恥ずべき終焉である。そして、この超大国は、自らの政策の失敗をほかの関係国の責任に転嫁しようとしている」と指摘し、米国のこの動きを批判する。
 ロイター通信によると、タリバンが首都カブールを制圧した時、パキスタンのイムラン・カーン首相は「アフガンの人々が奴隷の鎖を断ち切ったと称賛した」という。社説は、「パキスタンが不必要にタリバンの勝利を喧伝したことで、欧米諸国をいらつかせたのは事実だ」としながらも、「重要なのは、米国議会に、制裁を求める動きよりも冷静な見方が広がっていることだ。米国は、パキスタンを名指しでタリバンに協力したと責める前に、自らの失敗戦略を見直すべきだ」と、指摘した。

タリバン内部には摩擦も

 一方で社説は、タリバンの側の内部事情をこう指摘する。
 「アフガニスタンの状況は極めてデリケートだ。タリバンから、人権を尊重するという条件を引き出すには、高度なスキルと忍耐が必要だ。ただ、彼らは、争いによって破壊された国の再建に対する援助を世界に求めている。タリバンが1964年の憲法を<一時的に><修正を加えて>採用すると発表したのは、国際社会に対し、自分たちが正統な政府であり、対等な相手であるということを示す目的がある」
 つまり彼らは、自分たちが国際社会から認められるためには何をしたらいいかを重視しているというのだ。
 しかし、タリバン指導部には、強硬派と、国際社会と関与していこうという中道派があり、摩擦が起きている模様だ、と社説は言う。 
 「国際社会は、中間的な立場をとる必要がある。制裁や孤立は、タリバン強硬派の勢力を拡大させ、<イスラム国>のような極端な武装組織に走らせるかもしれない」
 アフガニスタンと隣り合い、それゆえに長い歴史を有するパキスタンは、アフガニスタン国内の反パキスタン武装勢力の活動にも目を光らせている。アフガニスタンが混乱に陥ることは、敵対組織が勢力を拡大する温床にもなりかねないからだ。だからこそパキスタンとしては、地理的に離れた場所で「制裁」を叫ぶ米国の声に、無責任さを感じるのだろう。

 

(原文https://www.dawn.com/news/1649276/seeking-sanctions)

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