トルコのシリア侵攻の背景は
危機に瀕する地域の安全保障

  • 2019/10/17

 トルコは10月9日、シリア北東部のクルド人民兵組織「人民防衛隊(YPG)」に対する軍事行動を開始した。YPGとは、シリア内戦の過激派「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」を掃討するために、米軍が長年、支援してきた組織である。最近になってトランプ米大統領が米軍をシリアから撤収すると打ち出したため、「切り捨てられた」と言われているのが、このYPGだ。今回、トルコがシリアに侵攻したのは、この米軍の撤退が引き金になったとも言われている。パキスタンの英字紙ドーンは、10月14日付の社説でこの問題を採り上げた。

2019年10月11日、トルコ国境の街で気勢を上げるシリア国軍(シリア自由軍) (c) ロイター/アフロ

米軍撤退が引き金を引いたか

 社説はまず、「トルコ軍によるシリア侵攻がすぐに収まらなければ、全面戦争に広がりかねない」と、懸念を示す。そのうえで、トルコ側が軍事作戦に踏み切った理由として、「現在、トルコ国内にいる難民たちを安全に帰還させることができる地域をシリア内に確保するため」だと指摘した。しかし、実際には「トルコ側が行っている攻撃は、安全地帯をつくるという言い分とはまったく裏腹に、国家の主権を侵害し、戦火に油を注ぐものだ」と、非難する。

 さらに社説は、「米軍の仲間であるクルド勢力がシリア国内に置き去りにされたことを踏まえると、アンカラ(トルコ政府)は、ワシントン(米政府)から暗黙の了解を得ていたように見受けられる」と述べ、今回のトルコ軍の侵攻の引き金をひいたのは、米軍撤退だったと示唆する。加えて、この侵攻がシリア側への通告なしに実施され、国際法に鑑みると問題があるとの見方も示している。

「ツイッターで政策変更」

 社説によれば、今回の侵攻が起こる前は、シリア政府と反政府勢力によって構成された委員会が国連のバックアップを受けて新憲法を作成するなど、シリアの状況は改善されつつあったという。しかし、侵攻によってその動きが止まることが懸念されている。

 さらに、同紙が懸念を示しているのは、北部シリアでクルド勢力に抑留されているイスラム国(IS)兵や家族たちが、収容所から逃げ出すのではないか、ということだ。すでに何人かは逃亡しているという報道もあるという。

 そのうえで社説は、「イスラム国の脅威を抑え込むことができたのは、ひとえに国際的な協力によるものだったことを忘れてはならない」「もし、無責任な軍事行動によってイスラム国が再生することになれば、この地域の安全保障は崩れ去る」として、トルコ政府に撤退をするよう呼びかける。「難民やテロなど、トルコ軍が侵攻に踏み切った背景については、シリアもまじえて国際法の下で話し合いがなされるべきだ」

 また、米軍の撤退が今回の侵攻の背景にあることについて、「クルドをはじめ、米国の安全保障の傘下にある地域にとって、これは教訓となる出来事だ」と指摘したうえで、次のように述べている。「ホワイトハウスにいるトランプ米大統領は、周囲のまともな助言を無視してツイッター一つで政策を変更するのだから」

(原文:https://www.dawn.com/news/1510739/turkish-incursion)

 

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