パキスタンの司法で問われる証人保護
報復行為でおびやかされる法の正義に地元紙が危機感

  • 2020/11/23

法廷において、信頼のおける証言は判決を大きく左右する重要な要素である。11月20日付のパキスタンの英字紙ドーンは社説で、最近起きた事件の証言が相次いで取り下げられていることと、証人の保護の必要性について採り上げた。

パキスタンでは、証人が報復に怯えて証言を取り下げる事例が相次いでいる (c) Sora Shimazaki / Pexels

危険にさらされる証言者

 社説は、「パキスタンの刑事訴訟の問題点はいくつもあるが、その一つは証人の保護が完全ではないということだ。それゆえに、目撃者は証言することを恐れたり、証言を取り下げたりすることになる」と、書き始める。

 社説が証人保護の問題を採り上げたのは、ある有名な事件において、証人が証言を取り下げるということが起きたからだ。

 2018年1月、カラチでモデルをしていたナキブラ・メス―ドさんが、警察官に殺害された。警察は、「ナキブラさんがイスラム過激派とつながっていた」と述べ、「彼を殺害したのは反テロ捜査の一環だった」と、主張した。しかし、ナキブラさんの親族はこの事実を否定。「実際には罠にはめられ、無実のまま殺害された」と、主張した。ナキブラさんの正義を求める運動が広がったことで、事件は広く知られることになった。

 しかし、社説によれば、この有名な事件の公判で、最近、3人の目撃者が相次いで証言を取り下げたという。ナキブラさんの家族によれば、「証人たちは、元警察官のラオ・アンワーを含む容疑者たちが有力者であることから、自身に報復が及ぶことを恐れた」と主張しているという。社説は、「こうしたことは今に始まったことではない」とした上で、「反テロ法廷の判事によれば、人々は非常におびえていて、テロリストや暴行犯の訴追に協力できない状態だ」と、指摘する。

実効性のある証人保護を

 証言の拒否や取り下げが相次いでいることについて、社説は、「十分に理解できることだ」として、次のように述べる。

 「証人とその家族に対して確実に保護すると約束できなければ、積極的な協力が得られないのは当然だ。首都カラチのあるシンド州では、最近、証人保護法が成立したが、まだ完全に実施されているとは言えない状況だ。暴力的な犯罪を裁き、法の正義を貫くためにも、証人保護プログラムは実効性のあるものでなければならない」

 ここで想起されるのは、2012年にカラチで起きた縫製工場の火災だ。この火災では、255人が死亡し、同日にラホール市内で発生した工場火災と併せ、パキスタンの産業災害史上で最悪の規模の被害が出た。当初、原因は失火とみられていたが、その後、犯罪組織により放火されたことが判明。容疑者は約4年後、逃亡先のタイで逮捕されたという。

 社説はこの事件の捜査を進める上で、犯罪を立証する証言を得るために証人を準軍事組織によって保護したことが有効だった、と指摘する。

 「証人の身元を隠したり、必要な場合には別の場所にかくまったりする証人保護プログラムは、確実に実施されなければならない。テロリズムや暴力事件の場合には、特に必要不可欠だ。さもなければ、自らの命を危険にさらしてまで証言に立とうという人は現れないだろう。その意味で、パキスタンの司法にはまだまだ改善されるべき点が多い」

 証人だけではない。被害者も、場合によっては加害者も、その生命の安全を保障されなければ、公平な法の裁きはなされない。

 

(原文: https://www.dawn.com/news/1591370/witness-protection/)

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