パキスタンで未曽有の洪水被害
「先進国の公正な責任分担を」
- 2022/9/3
パキスタンでは、6月から続く豪雨で洪水の被害が拡大している。現地からの報道によると、これまでに死亡した人は1136人にのぼる。パキスタンの担当大臣は、「国土の3分の1が水没している。想像を絶する規模の危機だ」と、危機感を募らせている。
生活必需品の価格が高騰
パキスタンの英字紙ドーンは、連日被害状況を報じている。同紙によると、7月の1カ月間の降水量は平年値の約181%と、2倍近い雨が降り続いた。降水量は1961年以降で最多となっており、国家的な非常事態に陥っている。
同紙の8月30日付の社説では、洪水により食料など生活必需品の価格が急上昇しており、対策が必要となっていることが伝えられた。
社説によると、特に価格が上がっているのは、日常生活に欠かせないトマトや玉ねぎなどの野菜で、8月の最終週だけでも価格が45%上がった。その他、平均で2割から3割の物価上昇となっているという。また、洪水により供給網が断ち切られていることも、食料の入手が困難になっている原因の一つだという。
社説がさらに指摘するのは、物価高や食料不足が今後も長く続くことへの懸念だ。洪水によって多くの農作物が被害を受け、家畜を失った世帯も多い。穀物や野菜、乳製品や肉など食料全体が供給不足となることも予測されている。
不公平な負担と国際社会
こうした状況を受けて、同紙は同じ8月30日付の紙面に「国際社会の責任」と題した社説も掲載した。
「これはとんでもなく不公平な分担だ。気候変動をもたらす地球温暖化の原因は二酸化炭素の排出だが、これまでの経緯を振り返れば、パキスタンが負うべき責任は数パーセントであろう。しかし、わが国は、気候変動の被害を最も受けやすい国の一つだ。パキスタンの人々が命を奪われ、家や家畜も奪われる一方、先進工業国の人々はこれまでの発展に見合うだけの責任を負っていない」
社説は、パキスタン国内では気候変動対策が十分ではないことをはじめ、対応の遅れがあることは認めるものの、それであっても、この気候変動の責任を主に負うべきは先進国であるはずだ、と強く主張する。
「戦争によって殺害と破壊を続ける資金があるのなら、再建につぎ込んでほしい。先進国は、自分たちがもたらした結果を再建する責任がある」
冷静な論調で国際的な視点を持った社説を掲載することに定評があるドーン紙だが、洪水をめぐるこの社説では、いつになく先進国に対して厳しく責任を追及している。今、気候変動によって発生している豪雨は、南アジアや東南アジアの人々が古来から「共存」してきた洪水とは異なる、見知らぬ敵を連れてきた。日本でも「雨の降り方が変わった」と感じることがしばしばある。真っ先に被害を受ける人々の声に、真摯に耳を傾けたい。
(原文)
パキスタン①: https://www.dawn.com/news/1707525/food-inflation
パキスタン②: https://www.dawn.com/news/1707526/international-responsibility