新型コロナに揺れ動く社会
恐怖心から相次ぐ事件に危機感にじむフィリピンの社説

  • 2020/4/16

 新型コロナウイルス(COVID-19)の感染が世界各地で拡大するなか、感染の恐怖とたたかいながら任務を果たす医療従事者に、感謝と称賛の声が集まっている。しかし一方で、感染への恐怖から、医療従事者や患者に対するいわれなき差別が広がっているという。フィリピンの英字紙インクワイアラーは、4月8日付の社説でこの問題をとりあげた。

新型ウイルスの感染拡大に対する恐怖から、フィリピンでは医療従事者や患者らに対する差別行為が広まっている (c) Annie Spratt / Unsplash

救急車の運転手が撃たれる

 社説は、フィリピン国内で起きた医療従事者や感染者に対するさまざまな暴力や差別、嫌がらせを列記する。

 「先週、ケソン市内で救急車の運転手が住民に撃たれた。犯人は、救急車がCOVID-19の感染者を運んでいると思ったと言うが、実際にはこの救急車は病院関係者を輸送するものだった。また、事件の数日前には、別の場所で、病院関係者が勤務先へ向かう途中、集団に襲われ、顔に漂白剤をかけられたり、医療技術者が公共交通機関への乗車を拒否されたりした。さらにセブでは、2人の看護師が居住しているコンドミニアムに入ることを拒まれた。このような事例はあちらこちらで起きており、食堂に入れなかったり、寮から追い出されたりといったケースも起きている」

 社説によれば、感染者もまた、暴力や嫌がらせの対象となっている。マニラのトンド地区では、感染が確認された住人が、借りているアパートに戻ることを拒まれた。感染は確認されたが症状は出ていなかったため、保健所は自宅隔離を指示したのだが、近所の住民たちは道にバリケードを築き、彼を家に近づけなかったのだ。高齢でリスクの高い人だったことから、感染者は病院に入ることになったという。

 さらに、感染者のみならず、「感染の疑い」をかけられただけで恐怖心が生まれ、攻撃のターゲットになり得る、と社説は指摘し、その事例を挙げる。あるスーパーマーケットで警備員として働く女性は、ある日、熱が36度を超えているとして病院へ行くよう命じられた。病院で検査を受けたが発熱が認められなかったため自宅に帰されたところ、彼女の持ち物は集められてごみ袋に入れられており、部屋に入ることも許されなかったという。

差別行為に罰則規定も

 相次ぐCOVID-19関連の暴力や嫌がらせを受けて、フィリピン政府が動いた。社説によると、政府のタスクフォースが、COVID-19に関して医療関係者や感染者などに対する差別的行動をとった人を罰する方針を発表したのだ。その直接のきっかけとなったのは、イロイロでCOVID-19により死亡した感染者の家族が嫌がらせを受け、彼らの家が近所の人たちに石などで攻撃されたという事件だったという。

 中央政府の発表を踏まえ、地方政府も対策を打ち出している。例えばマニラ市は、4月2日に「2020年COVID-19反差別法令」を決定。医療従事者や患者に対する差別を禁じ、破った者は5,000ペソの罰金か6カ月以内の禁固刑に処することを決めた。

 社説は強く主張する。「感染拡大だけでも最悪の状態だというのに、それに加え、医療従事者や感染者に対して思いやりのない言動を取るなど、人間性を欠いたひどい行為だ」。冷静なときには見えにくい人間の感情を揺り起こし、あぶり出すCOVID-19の感染拡大。今こそ、恐怖心に打ち勝つ「人間性」の豊かさを信じ、発揮したいときだ。

(原文:https://opinion.inquirer.net/128738/stop-the-stigma)

 

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