繰り返されるデング熱とのたたかい
洪水被害に続く流行に見舞われるパキスタンとネパールの社説を読む
- 2022/9/29
「公衆衛生を国家の最優先課題に」
未曽有の洪水被害に襲われているパキスタンでは、国土の3分の1が冠水している。報道によると、地球温暖化の影響で、雨量が最大で75%も増えていたという。下水整備などの都市インフラが十分ではないという事情も被害を拡大させている要因の一つで、長期化が懸念されている。
そんな中、パキスタンではデング熱の流行が始まっている。パキスタンの英字紙ドーンが9月26日付の社説で報じたところによると、シンド州ではすでに7000人以上、カイバル・パクゥンクワ州では6000人以上の患者が発生している。カラチの病院はデング熱の患者であふれており、中には患者の受け入れを中断せざるを得ない病院もあるという。
デング熱は、蚊が媒介する病気だ。感染すると、急激な頭痛や発熱などに襲われる。特に雨が降った後の水たまりや建築中の建物に溜まった水、家庭で利用する溜まり水などには蚊が発生しやすく、熱帯の都市ではデング熱の流行が繰り返されている。
社説は「今年は深刻な洪水被害に加え、カラチやラホールなど、少なくとも国内10都市でデング熱が大流行の兆しを見せている」と、指摘。「国をあげた熱対策やキャンペーンが行われなければ、事態は悪化する一方だろう」との見方を示している。
デング熱への有効な予防策として、カラチでは燻蒸消毒が実施されているが、効果はまだ見えていない。「定期的な消毒剤の散布、メディアを利用した予防と治療に関する啓発活動が重要なのはもちろんだが、それ以上に蚊の排除が大切だ」と、社説は指摘する。
2年以上にわたるコロナ禍に、追い打ちをかけるかのような洪水被害とデング熱の流行。社説は、「政府は公衆衛生をこそ国家の最重要課題とするべきだ」と、主張している。
専門対策機関の設置を
デング熱の流行は、パキスタンだけの問題ではない。ネパールでも感染拡大が続いている。ネパールの英字紙カトマンドゥポストは、社説で「政府の公衆衛生対策機関の強化を」と、訴えた。
ネパールでは、6月末から首都カトマンドゥを中心にデング熱の感染が報告され始めた。しかし、政府はいまだ有効な対策を打ち出しておらず、感染拡大が放置されている、と社説は指摘する。
「デング熱対策は行政の対策だけでは完成しない。感染拡大が制御できるのは、行政と市民が一致団結して努力した時だ」
社説によれば、カトマンドゥ盆地南西部に位置する古都、ラリトプールでは、蚊の発生源を探し出して対処する活動が続けられている。というのも、この地域では、ふたをせず屋外に置かれた甕に溜まった水を利用している家庭が多いため、この水に蚊が生息してデング熱を媒介するのだ。しかし、家に調査員を入れたがらなかったり、調査に協力しなかったりするケースもあり、取り組みは難航しているという。
社説は、「この2年間は新型コロナの対策に集中していたが、デング熱やコレラも同様に公衆衛生上の重要な課題だ。政府は、感染症発生の抑止に重要な役割を果たす公衆衛生対策機関を強化すべきだ」と、指摘している。
(原文)
パキスタン:https://www.dawn.com/news/1711926/dengue-concerns
ネパール:https://kathmandupost.com/editorial/2022/08/31/tackling-dengue