フィリピンで1年半ぶりに対面授業が再開
地元紙がワクチン接種をしていない子どもの感染防止を訴え
- 2021/12/6
新型コロナの感染拡大が抑制され始め、オミクロン株の出現という新たな課題もありながら、世界各地で経済、社会活動が再開されている。なかでも、学校の再開を待っていた子どもたちは多いことだろう。しかし同時に多くの国が「子どもの感染をどう防ぐか」という問題に直面している。フィリピンの英字紙インクワイアラーは、11月20日付けの社説でこの問題を採り上げた。
なくならないリスク
フィリピンでは11月15日から、1年半ぶりに小中高校の対面授業が再開された。長期にわたるリモート授業に不安の声は強く、対面授業再開を望む声は高くなっていた。今回の再開は、感染の少ない地域の120校を対象に試験的に踏み切られたもので、全国の学校で全面的に再開されるにはまだ時間がかかる見込みだ。
こうした状況下で、社説は対面授業が再開した時の子どもたちの様子をこう描く。
「それは感動的で心あたたまる光景だった。子どもたちがアイロンをあてた制服に身を包み、はだしの子もいたが、みんなが教室に集っている。そうだ、壁のある、机のある、本物の教室だ。ただ一つ、戸惑うのは、一人一人を隔てるプラスチックのカーテンだ。それは、子どもも先生も、誰一人感染しないための政府の施策だ」
全面再開でないとはいえ、対面授業の再開は人々の心を躍らせたようだ。社説によれば、「フィリピン国内の新規感染者数は減少傾向にあり、回復者数は増えている。これが、ノーマル、あるいはノーマルに近い状態に戻る一つのサインではないか、と期待を抱かせた」という。
しかし、危険は今でもなくなっていない。
「欧州の経験が物語るように、規制から自由になるための代償は大きい。ここ数週間、欧州では感染者数が再び増えており、死者も出ている。新型コロナウイルスの脅威は、今なお、なくなっていない。規制が緩和されることによる安堵が広がり、人々の感染への恐怖が薄れれば薄れるほど、新型コロナの感染拡大を抑制し、人々の警戒心を保とうとしている公衆衛生分野の担当者にとって状況は難しくなるだろう」
そのうえで社説は、「子どもたちを、ショッピングモールなどの閉ざされた室内空間に連れて行く代わりに、公園などのオープンスペースでソーシャルディスタンスを保たせながら遊ばせることが推奨される」という、フィリピン医師協会のアティエンザ会長の言葉を引用しながらワクチン接種をしていない子どもたちへの感染に留意するよう、保護者に呼びかける。
さらに社説は、英国で1回目の感染爆発の脅威がなくなり、規制緩和に踏み切ったところ、成人の15倍もの速さで学齢期の子どもたちの感染が拡大したという事例も紹介。「特に10歳から14歳のワクチン未接種の子どもたちが、自分たちだけで活動することが多いため、危険にさらされている」と、指摘した。
子どもの安全を守るガイドライン
こうした状況を受け、フィリピン政府は11月初旬、子どもたちの行動に関するガイドラインを作成した。その後、ドゥテルテ大統領は、ショッピングモールに行くことができる子どもの年齢を制限するよう地方行政に指示している。2歳の子どもがモールを訪れた後に感染が判明したためだ。
後手に回ったフィリピンに対し、国際連合児童基金(UNICEF)は、教室の机の間隔を空けてソーシャルディスタンスを維持することや、廊下やみんなが集まる場所に印をつけること、手洗いを教えることなど、学校内外で子どもたちの安全を確保するためのガイドラインを発表していると社説は報じている。子どもたちが手洗いなどの感染予防策を楽しく学びながら習慣化できるよう工夫されているという。
そのうえで社説は、「公共の場では大人が小さい子どもの手をとり、放さない」ことをUNICEFが掲げていることについて、「シンプルだが、子どもたちの安全を守るために最適な手段」だと評価する。
学校再開を待ち望んでいた子どもたちに、再び悲しい思いをさせてはならない。子どもの安全は、大人の責任である。
(原文https://opinion.inquirer.net/146626/keeping-kids-safe)