棚田を守ろう
フィリピン・バナウェに緊急警告

  • 2020/1/20

国連の食糧農業機関(FAO)がこのほど報告書を発表し、バナウェの棚田に緊急警告を発した。バナウェの棚田は、フィリピンのルソン島北部に広がるコルディリエーラにあり、世界最大規模とも言われる。1995年にユネスコの世界遺産に登録されたが、2001年には危機遺産にも登録された。フィリピンの英字紙インクワイアラーは、12月24日付の社説でこの問題を採り上げた。

フィリピンのルソン島北部・コルディリエーラに広がるバナウエ棚田が危機に瀕している (c) Aaron Greenwood / Unsplash

崩壊する棚田

 バナウェの棚田は、山岳民族のイフガオ族などが2000年前から作り始めたと言われており、1670ヘクタールの土地に、上段の棚田から順番に水が流れるように灌漑システムが完備されている。人間の技の粋を集めた傑作で、世界の七不思議に次ぐ「八番目の不思議」とも言われているほどだ。

 しかし、その棚田が危機に直面しているという。社説はその理由についてこう説明する。「棚田が消滅しつつあるのは、イフガオ族の若い世代が、棚田を守るより都市部へ行ってしまうからだ。すでに600ヘクタールが放置され、修復が必要な状態になっていると指定する研究もある。棚田に残った若者たちも、コメではなく、換金作物の栽培に、より関心を持っている」。

 FAOによると、棚田を畑に作り替え、野菜など、より利益を生みやすい作物の生産に切り替えようとする時に使用するミミズが、土地の浸食を引き起こすという。ミミズには、地中に水を通す穴をあけるという役割があるが、あまりに多くのミミズが穴をあけてしまうと、畑を乾燥させてしまい、土地がひび割れするという。そこへ水が注がれると、地面が崩れ、田んぼを区切っている石とともに流れてしまうと、社説は説明する。

保全と発展

 棚田が世界遺産に登録され、観光地化が進む一方、コルディリエーラは、フィリピン国内でも貧困率が最も高い地域の一つである、と社説は指摘する。棚田があっても、この地域の人々の暮らしは豊かになっていないのだ。「棚田が大切だ」「保全しろ」と呼びかけるだけでは、住民たちは食べていけない。

 フィリピンの貧困削減委員会はこのほど、先住民の知識と経験を通じて棚田の保存を図るために40億ペソ以上の予算を用意したという。しかし、それはまだ支出されていない。

 社説は言う。「イフガオ族の若者が、棚田の耕作をやめて都会へ働きに出たり、より利益の出る野菜など換金作物の栽培をしたりすることは、世界遺産と彼らの暮らし、どちらにも危機をもたらす」「しかし、棚田の崩壊は、イフガオの若者だけの責任ではない。農業を軽視する傾向にあるフィリピンの政治経済の方が、責任は重いかもしれない」

 そして、こう嘆く。「フィリピン先住民の不屈の創意工夫の金字塔である棚田が、近代化の犠牲となり、忘れ去られようとしている。我が国が、このお金に換算できない、代替のきかない財産を失おうとしていることを認識しなければならない」

 危機に直面している世界遺産は、バナウェの棚田だけではない。世界遺産の保全と、地域の人々の経済や暮らしの向上。このバランスをとることは、どの国でも共通の課題だ。

(原文:https://opinion.inquirer.net/126080/save-the-rice-terraces)

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