ロシアのウクライナ侵攻と各国の報道4
苦悩を深めるインド、変化の好機ととらえるタイ
- 2022/4/4
ウクライナ侵攻は、ゼレンスキー大統領が日本を含む複数の国々で演説をして協力を呼びかけるなど、世界各国を二分する勢いで巻き込んでいる。停戦が成立したとしても、この対立構造は尾を引きそうだ。
中立の姿勢を疑問視
国連総会緊急特別会合は3月2日、ロシアによるウクライナ侵攻を非難する決議を賛成多数で可決した。加盟193カ国中、賛成は141カ国、反対は5カ国。そして棄権は35カ国だった。棄権した国の一つはインドだ。インドは、安全保障理事会の非常任理事国として、ロシアが提案した人道決議案についても棄権した。インドでは、「沈黙を守ることで不利益が重なるのなら、インドもロシアを非難する立場に変えるべきだ」という意見が出ている。
これを受け、インドの英字紙タイムズオブインディアは3月25日の社説で、「ロシア非難と、ロシアから提案された二つの決議のどちらに対しても、インドは棄権した。後者では、賛成に回った中国と比べ、インドはより中立であることを選んだとの見方もあるが、はたしてそれで国の利益を守ることができるだろうか」と、疑問を呈する。
インドは、ロシアから最も多く武器を輸入している国の一つだ。中国やパキスタンと国境を接し、対峙しているインドにとって、軍事力の維持は重要な課題である。「ロシアを非難する立場に立てないのは、そのためだ」という見方もあるが、社説は、「ロシアにとって最大の武器の輸出相手であるからこそ、インドはこの関係を利用してロシアに対して影響力を行使できる。なぜなら、国際的な経済制裁を受けるロシアは、武器の輸出先を必要としているからだ」と、指摘する。
さらに社説は、「ロシアの攻撃が手詰まりを見せている中、もし、ウクライナの抵抗をつぶすためにロシアが攻撃を強めた場合、インドが慎重な立場をとることはインドの評判を高めることになるだろうか。また、インドは国連決議で棄権するのか」と問いかけた上で、「ウクライナ侵攻が終わった後も、プーチン大統領は多くの民主国家と対立し続けるだろう。インドはそうした民主国家とビジネスの深い関わりを持っているのだ」と指摘。インドが中立の姿勢を貫くことを疑問視し、「インドはその姿勢を変える準備をしておくべきだ」と、主張している。
有機農業への切り替えの転機に
ウクライナ侵攻は、外交的な影響のみならず、原油価格や物流コストの上昇など経済的にも深刻な影響をもたらしている。しかし、それを嘆く報道ばかりではない。例えばタイの英字紙バンコクポストは、その「経済的危機」をチャンスに変えようと、3月14日の社説で提案した。
社説のテーマは、「肥料」だ。社説によれば、ロシアは世界の化学肥料の13%を生産し、輸出している肥料大国だという。そのため、ウクライナ侵攻後は、肥料の価格も上昇した。
タイは昨年、ロシアから50万トンの化学肥料をウクライナの港を経由して輸入した。タイ全体では、年間500万トンの肥料の需要があるが、国内で生産できるのはわずか8%に過ぎず、残りは、ロシアをはじめ、中東諸国やベラルーシ、カナダ、中国などから輸入しているため、このままでは、タイ国内の農業はコスト高に苦しめられることになる。
そこで社説は、「タイ政府はこの機会を利用して化学肥料の利用を減らし、有機農業の普及に努めるべきだ」と、提言する。タイ政府は、今後20年間で農産品生産の「スーパーパワー」となることを目指しているという。環境に配慮した有機農業を国の主力とし、高い付加価値の農産品を生産・輸出することは、国際的な農業のトレンドを先取りすることにもなる。「20年などと悠長なことを言わず、すでに始めている事業を加速させて切り替えるべきだ」というのが、社説の提案だ。
与えられたネガティブな運命を逆手にとって、新たな価値観や行動を生み出す。新型コロナの感染拡大においても、人類は、長い時間と多くの犠牲を経て同じことを見出そうとしている。バンコクポストの社説から、人類は少し強くなったのではないかと感じるのは、楽観的過ぎるだろうか。
(原文)
タイ:https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/2278679/fertiliser-boon-awaits
インド:https://timesofindia.indiatimes.com/blogs/toi-editorials/moscow-mantra-indias-russia-stance-must-change-if-costs-pile-up/