新型コロナウイルス禍のメーデー
シンガポール、建国後最悪の経済不況へ

  • 2020/5/7

 東南アジアの中でも最悪の感染者数となったシンガポール。5月1日までに確認された累計の感染者は1万7,101人。死者は16人で、主に外国人労働者の間で感染が広がったという。5月4日付けのシンガポールの英字紙ストレーツ・タイムズは、5月1日のメーデーに寄せた社説で、歴史を振り返りながらコロナ禍を乗り切るためには「政府・雇用者・労働者」の協調が必要だ、と説く。

コロナウイルスに感染しないよう帽子とマスクで顔を覆ってシンガポールのマリーナベイ地区を歩く女性(2020年5月4日撮影) (c) AFP/アフロ

「生涯最悪」のメーデー

 「今年のメーデーは、ほとんどのシンガポール人労働者にとって、生涯の中でも最悪のものとなったようだ」。社説は、このような書き出しで始まる。東南アジアの小国ながら、経済的には先進国と肩を並べるシンガポールは、これまでさまざまな経済危機を経験してきてきた。

 「シンガポールは1973年にオイルショックを経験し、1985年、1998年、2001年、2003年、そして2009年には経済不況を経験した。石油、金融危機の世界的な連鎖、テロリズム、住宅バブルが世界的な、あるいはこの国での経済不況のファクターであった。前世紀末のアジアの経済危機、今世紀初めの世界不況は、シンガポール人の記憶にも新しいところだ」

 しかし、それらの苦難も、国際通貨基金(IMF)が「1930年代の世界大恐慌以来のGDPの落ち込みが世界中で起きる」と予測する今回の新型コロナ禍に比べれば、「小さなものにさえ見える」と、社説は指摘する。IMFの予測によれば、シンガポールの2020年の経済成長はマイナス3.5%。建国後初めてといっていいほどの深刻な経済危機に直面している。

三者構成の原則

 この危機にあたり、ストレーツ・タイムズは「何がシンガポールのこれまでの経済成長を支え、さまざまな危機を乗り切れた要因か」を振り返り、「政府、労働者、雇用者の3者が政策を決定する三者構成の原則を貫いてきたことである。それはシンガポールという国の競争力を支える強みでもあった」と、指摘する。

 社説によれば、シンガポールでは、シンガポール全国労働組合会議(National Trades Union Congress)が1969年にセミナーを開催し、三者構成の原則を経済成長の中心に据えた。当時、イギリス軍の撤退を間近に控え雇用危機に直面していたシンガポールだが、この会議で三者が手を携えたことで、この国の「これから」の経済の礎が築かれたという。

 「危機をチャンスへと変え、政府、労働者、雇用者の三者が手を携えることが、シンガポール経済の基本的な在り方とされた。経済発展が労働者たちの犠牲のうえに成り立つものではないことを保証する政府の申し出だったからこそ、労働者は喜んでこの仕組みに参加したのだ」

 社説は、この歴史的な経験を思い起こせ、と呼びかける。

 「あの約束は、今も続いている。確かに、自然の脅威とも言える新型コロナウイルスの感染拡大は、これまでわが国が経験してきた脅威とは質的に違うものだ。医療危機によって、社会を維持するために必要な最低限の経済の仕組みさえ損ないかねない緊急対応が求められており、開放経済政策を掲げるシンガポールは、崩壊の矢面に立たされている。労働者も大変な苦しみを負うかもしれない。それでも、私たちには、厳しい時を、力を合わせて勝利した経験がある。メーデーにあたり、その素晴らしい伝統を、気持ちを新たに祝福しよう」

 シンガポールの経済的な成功は、三者構成の原則だけで語れないのはもちろんであろう。ただ、コロナ禍が、シンガポールという国の成り立ち、経済の礎までも掘り起こさせるほどの歴史的事件だということを、この社説は改めて知らしめる。

 シンガポール政府は5月2日、新型コロナウイルス感染抑制のための規制措置を数週間かけて段階的に解除する方針を示した。いくつかの業種は12日から事業を再開し、一部の学校も19日から少人数での登校が可能になるという。だれも経験したことのない未来への挑戦が、この国でも始まっている。

(原文:https://www.straitstimes.com/opinion/st-editorial/getting-through-by-collaborating)

 

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