ドーハを空爆したイスラエルに東南アジア諸国でも高まる非難
「ネタニヤフを裁け。さもなければ我々が裁く」 戦争犯罪を止められない国際社会に募る歯がゆさ

  • 2025/10/9

 イスラエルは9月9日午後、カタールの首都ドーハを空爆し、パレスチナのイスラム武装組織ハマスの関係者ら5人を殺害した。この空爆は、ガザでの停戦を交渉中だったハマスの幹部らを狙ったものであり、主権を侵害されたカタールは強く反発。停戦を提案したアメリカも不満を表明した。
 国際的な批判の高まりを受け、イスラエルのネタニヤフ首相は9月29日にカタールのムハンマド首相兼外相と電話で会談し、攻撃について謝罪したが、この空爆に対しては、カタールを含む中東諸国にとどまらず、多くのムスリム人口を抱える東南アジアの国々からも非難の声が高まっている。

イスラエルによるドーハ空爆によって殺害されたハマス関係者らの葬儀の様子。カタールの治安部隊隊員、バドル・サアド・モハンメド・アル=フマイディ・アル=ドサリ伍長もこの空爆で亡くなった(カタール・ドーハで2025年9月11日撮影)(c)Qatar TV/ロイター/アフロ

「巨大なハンマー」を振り下ろしたイスラエル

 インドネシアの英字紙ジャカルタ・ポストは、9月11日付けの社説で「この攻撃は国際法に対する明白な違反であり、戦争終結に向けた継続的な努力を妨げるものである」として、イスラエルを強く非難した。さらに同紙は、「インドネシアが今回の空爆に対する国際的な非難に加わったことは、正当な判断である」と、自国の姿勢を肯定している。
 「カタールは米国の同盟国でもあり、イスラエルとハマス間の停戦交渉において重要な役割を果たしてきた。イスラエルの攻撃は、この外交努力を粉砕する巨大なハンマーを振り下ろしたに等しく、イスラエル人人質の解放の可能性をも断ち切るだろう」

「中東版NATO」をも厭わない

 マレーシアの英字紙ニューストレーツタイムズは9月15日付の社説で、「国際社会の沈黙こそが、ネタニヤフの最大の武器」と論じた。
 社説は、イスラエルのネタニヤフ首相が「パレスチナ国家など存在しない。我々は我々の土地と安全を守り抜く」と述べたことに触れ、「戦争犯罪人と呼ばれる人物の発言として、これ以上のものはない」と強く非難した。
 また、9月9日のドーハ空爆については、「ネタニヤフ首相の大イスラエル構想の一環」だと位置付けたうえで、「これはパレスチナの併合のみならず、中東の他の地域をも征服しようというものだ」と警戒する。一方で、「イスラエルとつながりの強いアラブ諸国は、この事態を予見すべきだったのではないか」とも指摘した。
 「国際法はハマスに、武力抵抗という手段を使ってでも、占領を終結させる権利を認めている。アラブ諸国はイスラエルに伝えるべきだ。『ネタニヤフを裁け。さもなければ我々が裁く』と」

 さらに、ニューストレーツタイムズは3日後の9月18日付の社説でも、再びイスラエルを批判し、「シオニストの侵略に団結して立ち向かうべきだ」と主張している。
 社説は、この「団結」のための方法の一つとして、マレーシアのアンワル首相の「処方箋」に従うことを提案している。それは、「イスラエルを承認せず、外交関係を樹立せず、貿易も行わないように呼び掛ける」という、いわばイスラエル不承認・孤立化政策だ。また、アラブ連盟の決議に従い、非アラブ系のイスラム諸国として「集団安全保障」に「巻き込まれること」も重要だと主張している。
 後者について、社説は「中東版NATO」と呼んでも構わない、としている。「抑圧的な侵略者を阻止せねばならない。これこそが、ネタニヤフの『大イスラエル構想』を、彼にとっての悪夢に変える唯一の方法だ」としている。

首脳会談ヲ緊急開催も、アラブ諸国は「弱腰」

 ただ、マレーシア紙が期待を寄せるほど、アラブ連盟の決断は力強くはなかったようだ。
 アラブ連盟22カ国を含むイスラム協力機構は、イスラエルのカタール空爆への対応を協議するため、9月15日にドーハで緊急の首脳会議を開いたが、9月18日付のジャカルタ・ポスト社説によれば、「懸念されていた通り、首脳会議はイスラエルの行動をただ非難するにとどまった」という。
 同紙は、「キャラバンが通り過ぎると、犬は吠える」というインドネシアのこのことわざを引用し、アラブの指導者たちがネタニヤフ首相に対して弱腰であることを批判した。そして、アラブ諸国の足並みがそろわない背景として、「アラブ諸国は、イスラエルよりもシーア派が多数を占めるイランを恐れているためではないか」と指摘する。イランはシーア派国家でありながら、スンニ派のイスラム主義組織であるハマスを支援している。ただし、宗派の違いや地政学的立場の違いにより、両者は常に完全な協力関係にあるわけではない。

 東南アジア諸国は、アラブ諸国がイスラエルに対して一枚岩になれない状態を、歯がゆい思いで見つめているようだ。

 

(原文)
インドネシア:
https://www.thejakartapost.com/opinion/2025/09/11/israels-defiance-of-peace.html

https://www.thejakartapost.com/opinion/2025/09/18/oics-same-old-song.html

マレーシア:
https://www.nst.com.my/opinion/leaders/2025/09/1276705/nst-leader-uniting-against-zionist-aggression

https://www.nst.com.my/opinion/leaders/2025/09/1275264/nst-leader-international-silence-netanyahus-greatest-weapon

 

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