タイ東北部の保育施設で銃乱射事件が発生
繰り返された元公務員によるおぞましい事件に地元紙が抜本的な対策を訴え

  • 2022/10/21

 タイ東北部ノンブアランプー県で10月6日、武装した男が保育施設で銃を乱射し、刃物を振り回すなどして、少なくとも子ども24人と大人13人を殺害し、12人を負傷させた。現地からの報道によれば、男は元警官で、麻薬を使用していたとして、解雇されていた。男は犯行後、妻と子どもを殺害し、自殺した。

タイのノンブアラムプー県ウタイサワン町の保育施設で発生した銃乱射事件で犠牲になった人々の火葬式には、多くの市民が参加した(2022年10月11日撮影) (c) ロイター / アフロ

東南アジア最多の銃保有率

 タイの英字紙バンコクポストは10月9日付の社説で、「タイ最悪の大量殺人のおぞましい詳細がここ数日で伝えられ、怒りと悲しみは癒しようもない」と、記している。そのうえで、事件について「精神的なケアはこれからも長く続けられなければならないが、その一方で、こうした事件ではなぜ発生したのかを振り返ることが大事だ」と、指摘した。

 「私たちは、この犯罪が精神異常や違法薬物によって引き起こされた偶然の出来事だと片付けてはならない。そのうえで、社会システム上の2つの問題を認め、緊急に対応しなければならない。高い銃保有率と、安全担当者のメンタルヘルスの問題だ」

 タイの英字メディアであるザ・ネーションの10月8日付の記事によれば、タイの銃保有率は、東南アジアの中で最も高い。国内で登録されている銃器は、2017年時点で1000万丁を超えており、「100人に15.1人が銃を保有」している計算になるという。世界でも13番目に多い数字だ。また、2019年にタイ国内で発生した銃関連の事件は3万1419件に上り、そのうち6410件は登録済みの銃が使用されたが、2万4348件は未登録の銃が使用された。ザ・ネーションは、「タイにおける銃による犯罪発生率は、イラクとフィリピンに次いでアジアで3番目に高い」と、指摘する。

 バンコクポストの社説によれば、銃を保有するには、20歳以上であることや、自衛目的か狩猟目的であることなど、さまざまな厳しい条件があるという。また、登録費用も高く、ルールを破れば10年にわたる懲役や罰金も科せられる。ザ・ネーションの記事でもこの点に触れ、違法薬物の使用者や、精神的に健全ではないと認められる人、失業中の人、収入がない人、定住地がない人などは銃の保有が認められない人と報じている。

 バンコクポストの社説はしかし、厳しい銃所有規制を定めたとしても、「ブラックマーケット」で銃が簡単に、また安価に手に入れることができるのが現実だ、とも指摘した。また、動画サイトなどをみれば、銃の組み立て方といった情報も流れており、自家製の銃が製造可能になっているという。

 社説は、「今回の事件で言えば、34歳の容疑者は、警官職を解かれていたにも関わらず、銃を所持したままだった」と指摘した上で、「なぜ銃を回収しなかったのか、また、回収したのであれば、なぜ再度銃を入手できたのか、なぜ自家製の銃や改造銃などを取り締まる政策がいまだにないのか」と、疑問を投げかける。

公務員のメンタルヘルス管理も重要

 バンコクポストの社説が挙げたもう一つの大きな問題が、警察官や軍隊など、国民の安全を守る公務員たちのメンタルヘルスだ。

 社説は、「治安維持に従事している人たちは、採用面接の際にメンタル面のバックグラウンドを調査されることはめったにない。採用の段階のみならず、日常業務を通じて彼らのメンタル面の健康を維持することは重要だ」と指摘。その上で、「2018年から2021年の間に443人の警察官が自殺をした。この数字には、いかに警察組織が一人一人を守れていないか、がよく表れている」との見方を示す。

 タイでは、2年前にもナコンラチャシマのデパートで乱射事件があり、29人が殺害された。この事件の容疑者は、国軍の兵士だった。社説は、こうした悲劇を二度と繰り返さないために、一部の違法銃を取り締まるといった表面的な対策だけでなく、軍や警察などの組織における銃規制とメンタルヘルス維持の強化について、政府が抜本的な対策を進めることが必要だ、と訴えている。

 

(原文)

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