患者に背を向けるバングラデシュの病院
統計に含まれないコロナ犠牲者たち

  • 2020/5/27

 新型コロナウイルスの感染拡大は、さまざまな国の医療現場に多大な負担をもたらしている。いわゆる医療崩壊が発生しているのは、途上国だけではないものの、基本的な医療インフラが整っていない途上国では、問題はさらに深刻だ。バングラデシュの英字紙デイリースターは、こうした医療現場の問題をとりあげている。

バングラデシュの首都ダッカの街並み。新型ウィルス感染拡大の陰で、医療現場で治療を拒否され コロナ以外の病気で命を落とす人も増えている (c) Ahmed Hasan / Unsplash

治療拒否される患者たち

 バングラデシュにおける新型コロナウイルスの感染者は、5月24日現在で3万5,000人を超えた。死者数も全国で500人を超え、依然として感染が拡大傾向にあるという。

 社説は「拡大する新型コロナウイルスの感染によって医療施設に過剰な負担がかかり、命にかかわるような重要な治療を受けられないケースが多く発生しており、深刻な事態だ」と、指摘する。このようなケースは、過去数週間でますます増えているという。

 「最近の報道によると、民間の病院が、日ごろは受け入れている患者や重症の患者の治療さえ拒むケースがあるという。特に、患者に新型コロナウイルスの症状がみられる場合は、治療の前に、新型コロナウイルスに感染していないことを確認しなくてはならない」

 医療従事者が感染した場合、その人自身の生命にかかわるだけでなく、院内感染でクラスターを発生させる恐れにも直結する。今現在は、病気の治療の前に新型コロナウイルスに感染しているかどうかを調べることは避けられないプロセスなのかもしれない。しかし、そこで問題になるのは、感染確認の方法とスピードだ。緊急の治療が必要な患者の場合は迅速な検査が必要だが、途上国では十分な検査機能も人材もない場合が多い。

統計に含まれない犠牲者

 社説では、「病院が患者を拒んだ残酷な出来事による犠牲者」として実際に起きたケースも紹介されている。この男性は、どんどん容態が悪化していたにも関わらず、少なくとも3軒の病院に受け入れを拒まれた。高熱があり、新型コロナウイルスの感染を検査するバングラデシュ伝染病研究所(IEDCR)の結果がまだ出ていなかったからだ。4番目の病院でようやく治療を受けることになったが、診療を受けている間に心臓発作を起こしてしまった。すると、新型コロナウイルスの患者を受け入れていないその病院は、高熱と呼吸困難に苦しむ男性の入院を拒否。「受け入れ先が決まるまででいいので緊急治療をしてほしい」という家族の頼みも拒絶した。10時後、その男性はついに亡くなる。その翌日、家族はIEDCRから検査結果のテキストメッセージを受け取った。男性は、新型コロナウイルスには感染していなかった。

 社説によれば、保健大臣はすべての民間の病院とクリニックに対し、新型コロナウイルスの感染の疑いがある患者をほかの患者と分けて治療し、通常の患者も可能な限り受け入れるようにとの通達を出した。この指示に従わない場合、法的措置がとられる場合もあるという。

 「ヘルスケアは、国民の基本的な権利であり、民間病院やクリニックによる治療拒否は、医療従事者の倫理規定に反する行為である。政府は、この問題に迅速に取り組み、新型コロナウイルス感染以外の患者にも適切な治療が施されることを保障しなくてはならない」

 未知のウイルスは、多くの犠牲と医療関係者の努力によって、少しずつその性質が解明され、どうすれば感染を防ぐことができるかという対策も世界で共有され始めている。ワクチンや治療薬の開発も急ピッチで進んでいる。しかし、その陰で、新型コロナウイルス以外の病気で苦しんだり、命を落としたりする人たちもいる。こうした人々は感染者数の中に含まれていないが、まぎれもなく新型コロナウイルスの犠牲者であるということを忘れてはならない。

(原文:https://www.thedailystar.net/editorial/news/hospitals-turning-away-patients-1905151)

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