新型コロナが浮き彫りにした保健医療の危機
UHC先進国のスリランカが先進国のワクチン買い占めに苦言

  • 2020/12/28

 12月12日は、2017年に国連が定めた国際ユニバーサルヘルスカバレッジ・デーである。ユニバーサルヘルスカバレッジ(UHC)とは、すべての人が適切な予防、治療、リハビリなどの保健医療サービスを必要な時に受けることができる状態のことを言う。12月12日付のスリランカの英字紙デイリー・ニューズは、この日にあたり新型コロナが示した保健医療サービスの課題を指摘した。

スリランカでは歴代政権を通じて基礎教育と保健医療を無償で提供する政策が貫かれている(c) Pixabay

すべての人が安全でなければ

 スリランカのマヒンダ・ラージャパクサ首相は12月10日、国会において、新型コロナ対策のために政府がこれまで費やした金額が900億スリランカルピー(約504億円)に上ると述べた。スリランカは、政府による無料治療が行われている数少ない開発途上国の一つとして知られている。「独立以来、スリランカ政府はどの政権下でも基礎教育と保健医療を無償で提供する政策を貫いており、国民の生活の質を高めている」と、社説は指摘する。すなわち、スリランカは今年、通常の保健医療サービス費用に加えて500億円あまりを歳出していることになる。

 社説は、「スリランカには、国連総会が加盟国に対してUHCを求める決議をしたよりもずっと前からこのシステムが存在した。UHCデーは、保健医療システムに対する人々の関心を高めるとともに、そのシステムをより強固で適応力のある形にするために設けられた」と振り返った上で、「特に2020年は、世界中の人々にとって、保健医療がどうあるべきか考えさせられた。新型コロナウイルスがもたらした厳しい教訓は、ヘルスケア制度とUHCが新たな危機に直面したという事実をわれわれに突き付けている」と、述べる。

 その上で、社説は次のように指摘する。

 「医療崩壊の悲劇をわれわれは目の当たりにした。さらに、緊急事態に対応しようとすると、普段は行われている重要な医療行為、例えばHIVエイズ検査、がん治療、予防接種をはじめとした母子保健なども機能しなくなることが明らかになった」

 社説は、新型コロナのパンデミックのさなかで世界がUHCの目標を達成するにはさらなる努力が必要だ、と訴える。

 「医療福祉に、より多くの支出が必要だ。しかし、それは同時に、医療従事者を守り、病気を予防する医療インフラの強化といった適切な目的で使用されなければならない。保健医療システムに投資することは、将来起こり得る感染症対策などに対する国の備えを強固なものにするだろう。今年、パンデミックで得た教訓は、すべての人が安全でない限り、だれも安全ではないということだ」

豊かな国が果たすべき役割

 「すべての人が安全でない限り、だれも安全ではない」――そう訴える社説が危惧しているのは、豊かな国にワクチンや治療技術が独占されることだ。

 「健康に直結する緊急事態は、社会的に弱い人々へ集中的に打撃を与える。パンデミックに対応するために、世界は迅速でイノベーティブな対応をした。1年も経たないうちに数種のワクチンが開発されたことは、奇跡のようだ。しかし、ワクチンはすべての必要な人々に入手可能なものでなければならない。豊かな国が買い占めるようなことがあってはならない」

 その上で社説は、人口3700万人のカナダが、国民1人あたり5回分のワクチンを購入したという報道について触れ、「ワクチンは2回接種すれば効果があると言われているにも関わらず、過剰な量を確保している。他の先進国も同じことをしているかもしれない」との懸念を示す。

 ワクチンの購入については、国連が主導するCOVAXファシリティという共同購入の仕組みができている。これは、各国がワクチンを共同購入した上で、高・中所得国が自ら資金を出して自国用にワクチンを購入し、さらに国や組織などのドナーからの拠出金によって開発途上国にワクチンが供給される仕組みだ。とはいえ、この仕組みで購入できるワクチンは人口の20%までと定められている。

 社説は、「人口2100万人余りのスリランカの場合、この仕組みで購入できるワクチンは420万人分にしか過ぎない。豊かな国にワクチンを独占されれば、貧しい国が自己資金でなんとかワクチンを購入したとしても、すべての人にいきわたるのは2024年ということになる」と、計算する。

 最後の段落は、開発途上国の人々の率直な思いを反映している。

 「豊かな国は、このようなシナリオの中で果たすべき役割がある。人口をはるかに超えるワクチンを購入するといった自己中心的なふるまいをする代わりに、開発途上国の人々にも公平に分配し、世界中の国がワクチンを製造できるように技術を共有するべきだ。UHCは、すべての国々がグローバルヘルスの問題に協力して立ち向かった時に、初めて実現する」

 

(原文:http://www.dailynews.lk/2020/12/12/editorial/235860/healthcare-all

 

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