熱戦が予想される台湾統一地方選が開幕
2年後の総統選を占う「蔡英文政権の成績表」

  • 2022/9/2

情報合戦は再び起きるか

 もし、陳時中氏が台北市長に当選し、鄭運鵬氏が桃園市長に当選すれば、蔡英文氏派の候補が、ともに国民党が強い地盤で勝利することになり、蔡英文政権に対して有権者が合格点を出した、と言えよう。そうすれば、蔡英文総統の民進党内での基盤はさらに強まり、2024年の総統選では、蔡英文総統の指名候補が選ばれやすくなるとの見立てもある。

台南市長時代の頼清徳氏(左)と筆者(筆者撮影)

 現在のところ、民進党の総統候補は、副総統の頼清徳氏が有望だ。経験値が高く、国家観も明快で、陳水扁時代以来の民進党らしい総統になるだろうと期待されている。ただ、蔡英文総統との関係はと言えば、現在は総統と副総統として協力し合い、団結しているとはいえ、以前は民進党の総統候補の座をめぐって激しく争った相手であるうえ、今後の国家観にも違いがあると言われている。

 頼清徳副総統は、台南市長を務めていた時代、上海復旦大学で学者との対談の席上で台湾独立を言明したことがあり、台湾海峡の現状を大きく変えるのではないかと、中国のみならず、米国からも警戒されている。

頼副総統から信頼の厚い郭国文氏(筆者撮影)

 しかし、同氏は台南市長時代から日本の政界に強固なパイプを作っている。頼副総統から信頼の厚い立法委員の郭国文氏によれば、頼副総統は日本を米国に追従する政権だとは考えておらず、米国と日本のそれぞれと個別に独自外交を展開していきたい意向を持っているという。

 その意味で、同氏が総統の座に就けば、日本にとって台湾はアジアにおける独自外交をサポートしてくれる頼もしいパートナーになることが期待されるが、米国にとってはあまり面白くはないかもしれない。

 他方、蔡英文総統が後継者として指名する可能性が比較的高いと見られているのは、現在のところ、一期目(14期政権)で副総統を務めた陳建仁氏だ。同氏は台北市長選に出馬した時に陳時中候補の競選総部主任を務めていた人物であり、今回、陳時中候補が台北市長に当選した場合には、その歴史的勝利の功労者として、陳建仁氏が2024年の総統選の候補者として急浮上する可能性はある。

2018年の九合一選で起きた韓国兪ブームの様子(筆者撮影)

 つまり、今回の選挙は、地方選挙ではあるものの、民進党内の派閥対立に影響を与えるとともに、国民党の存在意義を問いかけ、さらには2024年の総統選挙や台湾の行方にも影響を与える重要な意味を持つものだと言える。同時に、2018年の高雄市長選挙で韓国瑜ブームを引き起こしたような、中国のインターネットを通じた認知戦は、今のところ起きていない。

 2018年の九合一選挙は中国がしかけた認知戦が最も成功した例の一つとされるが、その後、台湾側は、情報セキュリティー分野における企業育成の強化や、「個人情報保護法」の改正、専門機関の設立などを進めているうえ、今年設立したデジタル発展部(省)には唐鳳(オードリー・タン)氏が部長(閣僚)として就任し、サイバー攻撃やフェイクニュース対策の陣頭指揮をとる。こうした対策が効果を発揮できているかどうかも、今回の選挙のみどころだと言えよう。

 

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