残り半年を切った台湾総統選挙の行方を読む
第三の男、柯文哲候補の存在感が急拡大

  • 2023/8/6

米国の反応と「革命に匹敵する選挙」

 おそらくバイデン政権は、頼清徳候補が「ホワイトハウス入り」について言及したことに、内心、相当警戒したことだろう。それに比べれば、柯文哲候補の立場は、バイデン大統領やブリンケン国務長官にとって、より安心できる妥当なものなのかもしれない。

 ちなみに、柯文哲候補は6月4~8日に日本を訪問し、自民党の中でも台湾通として知られる古屋圭司・衆議院議員らと会談したほか、早稲田大学で講演を行うなど、日本の政界や世論に対するアプローチも抜かりがない。

 こうした柯文哲候補の発言や外交姿勢を見る限り、「親米友中靠日」や「強国等距離」といったスローガンを実現するための布石はしっかりと打っていると言ってよい。柯文哲候補は2018年に台北市長再選を果たした後、総統選出馬を視野に入れて2019年8月6日には民衆党を設立していた。以来、この3年間、総統選の勝ち筋についてかなり研究してきたように思われる。

 いまや侯友宜候補の存在感は完全に彼に食われてしまい、民進党・頼清徳候補の対抗馬は柯文哲候補だという印象すらある。親中派とみなされる彼だが、ロシア・ウクライナ戦争の勃発によって台湾有事のリスクもリアルに感じられる時代になった今、こうしたプラグマティックな外交視野を示すことで、民進党VS国民党という、米国か中国かという二者択一を迫る既存政党同士の選挙にうんざりしているノンポリ中間層の気持ちを一気に引き付け始めたと見ることができる。

きたる台湾総統選で与党・民進党の候補に決まった頼清徳副総統(c)AP/アフロ

 仮にこのまま国民党が泡沫政党化していけば、国民党は解体の可能性もある。中華民国をつくった国民党が解体という事態になれば、国民党と中国共産党の口約束にすぎない「92年コンセンサス」も自動的に消滅し、中国は中台統一の根拠を失うことになるだろう。つまり、2024年の台湾総統選は、台湾・中華民国が「92年コンセンサス」、すなわち一つの中国原則と決定的に決別する選挙になる可能性もある。

 民進党と民衆党のどちらが勝っても、おそらく台湾は中国からの武力脅威に一層さらされることになるだろう。しかし、それによって米台関係を軍事同盟化にアップグレードする動きは加速し、米国は「一つの中国」政策を継続することが不可能だと認めざるを得ない局面を迎えるだろう。

 こう考えると、2024年の台湾総統選は、台湾にとってのみならず、米国を含む国際社会にとって、「革命に匹敵する選挙」だと言えるのではないか。選挙とは、血なまぐさい革命戦争を行わずとも、平和裏に政権交代を行える人類の知恵だ。その効果を最も分かりやすい形で体現する一つの例が、台湾だと言える。

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