台湾TSMCの米国進出で「シリコンの盾」は揺らぐのか
米中で激化する半導体戦争と安全保障戦略の行方

  • 2022/12/27

「盾」の弱体化が招く軍事防衛の時代

 こうした中、TSMCはアリゾナに進出することによって、米国および西側自由社会に軸足を置くことを決意表明した。しかし、これについては、台湾の国益につながると歓迎する声ばかりではない。TSMCの大顧客であった中国市場を失うというだけでなく、「シリコンの盾」としての機能が二重の意味で弱まることにもつながるからだ。

TSMCのあるところは豊かになるのか(筆者撮影)

 というのも、米国内に製造工場ができれば、米国が命がけで台湾内の工場を守る必要性がそれだけ薄まるということになりかねないからだ。また、台湾の半導体産業が米国陣営に立つことを選択したということは、今後、中国からの半導体依存度が低下していくことになり、中国が台湾を戦火にさらすことを躊躇していた一つの理由が消えることになる。

 台湾内の疑米派、すなわち米国を信用していない人たちの中には、80年代半ばに日本が半導体の供給で米国を抜き、一躍、世界一のシェアに躍り出た後、米国から目の敵にされ、圧力をかけられて衰退していったのと同じ歴史が台湾で繰り返されるのではないか、と見る人もいる。

 台湾財経評論家の陳鳳馨は、500人に上る台湾エンジニアが、台湾で働くより安い給与で米国の工場で働き始めることについて、「人材を根こそぎ持っていかれる」、「台湾の半導体産業は欧米に搾取され続ける」、「かつての東芝と同じ轍を踏む」、「台湾は経済貿易保護主義の最大の被害者だ」と、批判を繰り返している。

 これに対し、TSMC最高製造責任者の魏哲家は、「問題ない」、「何をしようと台湾半導体産業はたおされない」と反駁。台湾経済部も「米国で生産される先端ロジック半導体は全世界シェアのわずか2%に過ぎず、大きな影響はない」としたうえで、「このような考え方は、中国の米台関係の離間策に利用されるだろう」と警告した。

 台湾は国連を脱退し、ほとんどの国家と正式な国交を結ばずにきた「国際社会の孤児」であったが、代わりに民間企業がグローバル経済チェーンの要所要所に食い込み、台湾の安全を担保する役割を担ってきた。だが、こうした戦略は、経済貿易のグローバル化が正しいというコンセンサスがあってこそ成立する。フェニックス工場の設備搬入式で、張忠謀が「グローバル化や自由貿易は風前の灯であり、起死回生はおそらく無理だろう」と発言したことは、多くのメディアで注目された。これは、TSMCのアリゾナ進出が、半導体産業の逆グローバル化、すなわち米中で繰り広げられる半導体戦争のグローバル化の起点になるであろうことを意味しているのではないか。であるならば、これを機に、台湾の安全保障戦略も大きく変わっていかざるを得ないだろう。すなわち、「シリコンの盾」ではなく、軍事力による防衛の時代に転換していくということだ。

 これは、台湾だけの話ではない。

 

 

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