コロナが浮き彫りにしたタイの移民労働者問題
非合法滞在者にも2年の猶予が決定
- 2021/1/18
新型コロナ感染者が急増しているタイで、政府は違法滞在中の移民労働者にも2年の猶予を認める方針を打ち出した。2021年1月9日付のタイの英字紙バンコクポストは、この話題をとりあげた。
外国人コミュニティで相次ぐクラスター感染
タイ国内では2020年12月半ば、バンコク近郊の中部サムットサコン県にある水産市場でクラスター感染が発生した。これをきっかけに、近隣県やバンコクでも感染者が続発。それまで感染を抑制していたタイだが、2021年1月3日には1日あたり745人の陽性者が判明する事態となり、1月半ばまでに累積感染者数は1万人を超えた。
地元紙などの報道によると、サムットサコン県でのクラスター感染では、感染者の大半が市場で働くミャンマー人だったという。実は、ミャンマーでは2020年9月半ばより感染者が急増している。現在では新規感染者数が1日あたり600人前後にまで落ち着いているが、一時は一日に確認される新規感染者数が2000人近くに上り、累計感染者数は13万人を超えている。タイで明らかになった感染者たちの感染経路は判明していないものの、同国で働く外国人コミュニティでの感染拡大という新たな課題が浮き彫りになった形だ。
タイには、隣接するミャンマーやラオス、カンボジアから、多くの労働者たちが、合法、違法、さまざまな形で来ている。家族も同行している場合があり、子どもたちの保護も必要だ。
社説によれば、今回の特別措置は「新型コロナの感染拡大を受け、移民労働者たちの動きを把握するために、非合法に滞在しているミャンマーやラオス、カンボジアからの労働者たちも2年間の滞在を許可することにした」ものだという。社説は、そのタイ政府の判断を「明らかに正しい」と、評価している。
さらに社説は、手続きについて次のように解説している。すなわち、外国人労働者たちは2021年1月15日から2月13日の間に、「ピンクカード」と呼ばれる一時的な労働許可証の取得を申請する。現時点で失職している人であっても7カ月の猶予が与えられ、その期間内であれば仕事を探すことができる。また彼らの子どもたちも、すでにタイに滞在しており、18歳未満であれば、そのまま滞在が許されるという。
より踏み込んだ福祉政策を
一見、歓迎されるべき施策であるはずだが、社説は「この仕組みでは申請しない外国人労働者たちも多いのでは、という声もある」と、指摘する。
「最大の懸念は、ピンクカードの申請には一人あたり1万バーツ(約3万4500円)かかることだ。内訳は、新型コロナの検査に3000バーツ、2年間の保険購入に3800バーツ、登録費用として1900バーツ、などだ。もし、労働者本人や、その雇用者がこうした費用負担を躊躇し、申請に二の足を踏むことがあれば、政府の当初の目的は達成されないことになる」
社説は、「もちろん、ただ飯を与えろというわけではない」とした上で、「申請にかかる費用をもっと下げ、労働者が利用しやすくしなければならない」と主張する。
「新型コロナを制圧するためには、違法滞在者であってもPCR検査や治療にかかる費用を無料にするといった思い切った対策が必要なのではないか。保険についても、月割で支払える仕組みを作ってはどうか。甘すぎる、という意見もあるだろうが、政府の目的を達成するために必要なのは、“ムチ”より“飴”だ」
その上で社説は、新型コロナの感染予防のためだけでなく、違法労働を減らすために、移民労働者の福祉について抜本的な改善が必要だと指摘し、次のように訴える。
「例えば、合法的な外国人労働者を雇用する経営者には税の優遇措置を設けたり、労働者の登録費や保険費用を援助したり、外国人労働者の福祉に貢献した経営者を表彰する制度を立ち上げたりすることも一案だ」「いずれにせよ、移民労働者たちは間違いなく国家経済の一端を担っており、彼らの労働環境や生活環境にわれわれはもっと関心を持つべきだ。彼らは単なる労働力ではなく、この国にともに住む隣人たちだ。搾取するのではなく、適切な保護が必要だ」
その上で、社説は最後にこう主張している。
「新型コロナの感染拡大は、この国が抱える移民労働者の課題を露呈した。しかし、どのような危機であれ、変化の機会だと言える。政府は変化の端緒を開いたのだから、より、彼らが利用しやすい形にすればいい」
移民労働者に限らず、新型コロナが浮き彫りにした社会問題は数多い。どの国、どの社会においても、私たちはこれまでの「当たり前」について見直しを迫られている。
(原文: https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/2048079/make-it-easier-for-migrants)