「南アジアの誇り」、スナク英首相の行方
課題山積の中で熱いまなざしをそそぐアジアの社説を読む

  • 2022/11/21

 イギリスで10月24日、リシ・スナク元財務相が与党・保守党の新党首に選出され、翌25日、首相に就任した。リズ・トラス前首相が、史上最短の45日で辞任するという事態を受けての就任で、イギリス初のインド系首相が誕生した。 

ダウニング街10番地を出て下院で行われる首相質問に向かうリシ・スナック英首相(2022年11月2日、ロンドンで撮影) (c) AP/アフロ

インド「PIOはシンボリック」

 インドの英字メディア、タイムズオブインディアは10月25日付の社説で「リシ、用意はいいか? 偶然、党首として選ばれたインドにルーツを持つスナク首相の職務は膨大」という見出しとともに記事を掲載し、次のように述べた。
 「イギリスはこの3カ月間に3人の、そしてこの6年間に5人の首相を選出した。このお粗末なメロドラマの立役者は、コロナ禍のパーティー出席で足元をすくわれたボリス・ジョンソン氏と、経済政策で大失敗したリズ・トラス氏にほかならない。とはいえ、このドラマは、ウクライナにおける戦況が悪化する中で深刻化するイギリス経済の問題を映し出している。『最初に工業化に成功した国は、最初に脱工業化する』という説がある通り、イギリスの生産性や賃金の伸びは勢いを欠いている。スナク氏はこれまでの首相より有能だと言われているとはいえ、とんでもない仕事が引き継がれたものだ」
 社説は、スナク氏が選出された理由について、「この200年間の中で最も若い首相であり、茶褐色の肌を持つPIO(インド系)であることはシンボリックだ」としながらも、「イデオロギーに偏らず、信頼に足る人間であることがその理由だ」と、指摘する。また、スナク氏自身が裕福であることから、Rishi Richなどと揶揄する声も一部にあることに言及したうえで、実力で選ばれたと強調。「当面の課題は、イギリス国内の経済対策だ。スナク首相はおそらく、これまで以上に信頼を獲得する結果を出すだろう。だが、同時にその責務は重大なものになる一方だ」との見方を示している。

「初の南アジア系」の就任を誇るスリランカ

 他方、「今こそ南アジアの誇るべき時だ」というタイトルとともに社説を掲載したのは、10月26日付のスリランカの新聞デイリーニューズだ。
 社説は、「イギリスの首相官邸のドアは、普通の扉ではなく、まるで回転ドアのようだ」と、首相交代劇を揶揄しながらも、そこに登場した南アジア系のスナク首相について、「この200年を通じて最年少であり、ヒンドゥー教の信者であり、南アジア系であり、史上2人目のエスニックマイノリティーをルーツに持つ首相である。何より、これほど多くの人が憧れる注目のポストに南アジア系の人物が就任したのは初めてのことだ」として、期待感を表した。
 しかし、デイリーニューズ紙もまた、スナク首相を待ち受けている難題を列挙する。経済政策はもちろん、イギリスという国を統一する難しさにも言及し、やはり新たに就任したチャールズ新国王とともに、国としての統一に取り組む必要性を指摘した。また、欧州連合(EU)を離脱したイギリスが今後、国際問題にどう取り組むのかも問われている、と述べた。

シンガポールは「アジア系」の新しさに期待

 スナク首相にとって最初の国際的な舞台となるのは、シンガポールの英字紙ストレーツタイムズが指摘する通り、11月にインドネシアで開かれる主要20カ国首脳会議(G20)だろう。同紙は10月27日付の社説で、スナク首相がアジア系であることに触れつつ、「アジア諸国は、アジア系のスナク首相が、ウクライナ問題や、インド太平洋におけるイギリスの役割、そして何より中国との関係について、どのような新しい思想を持っているか注目している」と、指摘した。

 スナク首相について、インド紙は「インド系」、スリランカ紙は「南アジア系」、シンガポール紙は「アジア系」という表現を使った。それぞれに、スナク氏を自分たちに「近い」人物であることを強調し、だからこそアジア人が共感できる施策を掲げてくれるのではないかと期待していることをうかがわせた。このことが、これからの国際情勢にどう影響していくのか、興味深い。

(原文)
インド:

https://timesofindia.indiatimes.com/blogs/toi-editorials/ready-rishi-sunaks-roots-were-incidental-to-his-being-picked-as-uk-pm-by-fellow-party-mps-his-job-is-enormous/

スリランカ:

http://www.dailynews.lk/2022/10/26/editorial/289852/proud-moment-south-asia

シンガポール:

https://www.straitstimes.com/opinion/st-editorial/many-challenges-await-uk-s-new-pm

関連記事

ランキング

  1.  「ミャンマーを忘れないで」。10月8日、タイのバンコク芸術文化センターの一角に、若きミャンマー人の…
  2.  16の州から成る連邦制をとるドイツには地域ごとに独自の歴史と文化があり、異なる行政体の下でそれぞれ…
  3.  昨年2月のミャンマーの軍事クーデター後に抗議活動に参加して当局に追われる身となり、現在も国境地帯に…

ピックアップ記事

  1.  「ミャンマーを忘れないで」。10月8日、タイのバンコク芸術文化センターの一角に、若きミャンマー人の…
  2.  16の州から成る連邦制をとるドイツには地域ごとに独自の歴史と文化があり、異なる行政体の下でそれぞれ…
  3.  昨年2月のミャンマーの軍事クーデター後に抗議活動に参加して当局に追われる身となり、現在も国境地帯に…
ページ上部へ戻る