オンラインカジノの合法化をめざすタイ 世論は反発
税収増への期待の反面、若者と子どもに対する悪影響も懸念
- 2025/6/30
日本の芸能界やスポーツ界でも波紋を広げるオンラインカジノ。刑法では賭博罪や常習賭博罪にあたる違法行為と定められている。一方、日本と同様にカジノを「違法」と定めるタイでは、複合娯楽施設でのカジノやオンラインカジノを合法化する動きも出ている。
カジノの合法化で税収増をねらうタイ
国家管理の宝くじと競馬以外、カジノなどの賭博は禁止されているタイ。しかし、タイ政府は近年、複合娯楽施設でのカジノとオンラインカジノを合法化する法案の成立を目指している。3月下旬には閣議で法案が承認され、7月にも国会で審議される見込みだ。
法案の背後には、現在のペートンタン首相の父親でもあるタクシン元首相の存在があると言われる。ロイター通信などによると、タクシン氏は「オンラインカジノの潜在的な顧客はタイ国内に200万人から400万人おり、彼らの利用額に対して20%の課税ができれば、年間4,500億円以上の税収が見込める」としているという。
確かにタイ国内では表向きはギャンブルが禁じられているが、「闇賭博」が横行している実態がある。また、近隣のカンボジア、ミャンマー、シンガポールなどには、タイ人を含む外国人を対象とするカジノが林立し、相当の顧客数がいると推察される。今回のカジノ合法化の動きの背景には、カジノを政府のコントロール下に置き、さらなる税収の獲得につなげようというねらいがあるものと見られる。
仏教的道徳観との対立も
タイの英字紙バンコクポストは、5月15日付の社説でこの話題をとりあげた。
社説によると、カジノ合法化の法案に対し、連立政権内では強い反対がないという。また、タイ政府の説明によれば、この法案は必ずしもオンラインカジノを無条件に解禁するものではなく、実際にはカジノの主催者に対する規制を強化するものになる、とされている。
しかし社説は、カジノ合法化法案が国会で審議される際、「障害」に直面するだろう、と指摘する。
オンラインカジノを解禁するうえで懸念されるのは、若者や子どもへの悪影響だ。社説は、彼らをギャンブル依存症にしないためにどうすべきか、特定の人々へのインターネットの利用規制をどのように進めるのか、といった課題を挙げる。
加えて、熱心な仏教徒が多いタイでは、仏教的な道徳観からもギャンブルに反対する声が根強い。社説では、法案に関する公聴会に参加した4,300人超のうち、約4割が法案に反対したという調査結果を紹介している。また、ロイター通信では、タイ国立開発行政研究院が今年1月に実施した調査を引用し、1,310人の調査対象者のうち69%がオンラインカジノの合法化に反対したと伝えている。同調査では、カジノを含む複合娯楽施設とオンラインのカジノの両方に反対した人が59%を占めたのに対し、両方に賛成した人は29%と半分未満だったという。
タイ政府は、法案が通り次第、カジノを含む複合娯楽施設を国内に数カ所設置し、2029年の開業を目指すとしている。また、複合施設では、カジノの面積は全体の1割以下に限定され、入場料が課せられるという。
社説は、カジノ合法化について「より深く関心を寄せる必要がある」と指摘したうえで、「法案をめぐって十分に審査と議論が尽くされないままでは、予想を上回る悪影響がもたらされる恐れがある」と、警鐘を鳴らしている。
(原文)
タイ:
https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/3026146/on-line-betting-threat#google_vignette