国益最優先のアメリカを見つめるアジアの視線
相互関税に海外送金への課税 トランプ大統領の強硬策に対するアジア各国のまなざし

  • 2025/7/3

 米国のトランプ政権が米国にとって貿易赤字が大きい国や地域への相互関税を発動した。7月までに相手国が再交渉を行わなければ、正式に発効するとしている。米国の国際貿易裁判所は5月28日、これらの措置について「大統領に与えられた権限を越えている」として一部差し止めを命じたが、トランプ政権側はこれを不服として上訴。米連邦控訴裁判所は6月11日にこれを認め、差し止めの効力を一時的に停止した。対象となった国・地域では、一連の動きにどのように対応すべきか、活発な議論が続いている(その後、米国は7月初旬、ベトナムからの全ての輸入品に20%の関税をかける一方、ベトナムは米国製品を無関税で受け入れることで合意した。暫定合意に至ったのは、イギリスについで2カ国目)。

アメリカのトランプ大統領は、相互関税の正式発表前に、インドのモディ首相をホワイトハウスに招き、米国とインド間の貿易不均衡の問題などについて協議した (2025年2月13日撮影) (c) Government of India / Wikimedia commons

ピンチをチャンスに 「メインドインタイ」をブランドへ
 輸入品に最大36%の関税を課すという方針を示されたタイの英字紙バンコク・ポストは5月17日、「貿易交渉における、やることリスト」と題した社説を掲載した。
 社説によると、対米交渉に関するタイの基本方針は「米国との貿易・投資・輸入を拡大し、関税の引き下げを求める」というもの。つまり相互関税に対抗するのではなく、経済協力を拡大することで緩和を求めていく姿勢だ。タイが米国から購入する品目には、石油化学製品、トウモロコシなどの飼料、果物、航空機、牛肉製品などが含まれるという。
 注目されるのは、米国が問題視する「迂回貿易」だ。これは、本来の輸出国が貿易制裁や高関税を回避するために第三国を経由して商品を輸出することを指す。例えば中国で生産されたものをタイで一部加工、または梱包し、「タイ製」として米国に輸出すれば、中国は米国の高い関税を回避できるというわけだ。トランプ政権は、この迂回貿易に対して厳しい姿勢をとっており、今回のタイへの相互関税強化の背景の一つになっていると見られる。
 社説はこの迂回貿易について、「政府は、自国からの輸出品がタイ国内の原材料を使って国内生産されていることを保証するために信頼できる追跡システムがあることを示さねばならない。加えて国内の製造・輸出業者に対して補助金を出し、国産品の品質を保証する<メイド・イン・タイランド>ブランドの確立に取り組むべきだ」と述べ、次のように訴える。
 「トランプ政権による過激な関税措置は、世界貿易を混乱させている。しかし、危機にはチャンスが潜んでいる。この関税騒動は、タイ国内の生産者を保護し、その競争力を高めるきっかけとなるだろう」

「海外送金に対する課税の意義はゼロ%」と断じるインド

 相互関税に加え、世界にさらなる懸念をもたらしているトランプ米政権の措置について論じたのは、インドの英字メディア、タイムズオブインディアだ。同紙は5月16日付で「5%の税率、ゼロ%の意義」と題した社説を掲載している。「5%の税率」というのは、トランプ政権が検討している米国からの海外送金に5%課税するという政策だ(その後示された法案では3.5%に引き下げられた)。
 社説によると、2023年から2024年にかけて米国からインドに送金された総額は320億ドルに上る。「課税されればインドへの送金額は減り、その分、米国は豊かになる。だが、この課税は愚策だ」と社説は指摘する。
 その理由として、まず「原則として間違っている」と社説は断じる。米国への移民たちはすでに税金を支払っており、課税後の所得にさらに課税すべきではない、と社説は主張する。さらに、送金にはすでに高い金融コストがかかっているという現実もある。社説によると、インドへの送金手数料は0.8%から10.8%まで幅広いが、平均は4%だという。インド以外に目を転じると、エチオピアは5.5%、タイは9%などとなっており、もしこれにトランプ課税の5%が上乗せされれば、「損失」は大きくなる。
 その結果、何が起きるのか――。社説は「必然的に多くの人がハワラ(イスラム圏を中心に発展した非公式な送金システム)のような非公式な送金ルートを選ぶようになるだろう」としたうえで、「米国も十分に認識しているように、ハワラはテロリストや麻薬などの資金源になっている」と指摘する。社説は過去にもトランプ大統領が外国送金への課税を試みたことがある、と振り返ったうえで、「当時も良いアイデアではなかったし、今も同じだ」と、批判している。

 

(原文)
タイ:
https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/3027652/trade-talks-to-do-list#google_vignette

インド:
https://timesofindia.indiatimes.com/blogs/toi-editorials/5-rate-0-sense/

 

 

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