人権問題抱える中国で北京五輪が開幕
選手への発言規制や個人情報の収集をタイの社説が懸念
- 2022/2/12
2月4日から中国・北京で冬季オリンピックが開かれている。今回のオリンピックには、日本を含む一部の国々が、選手団は送るものの政府代表団の派遣をしない「外交的ボイコット」を表明した。その理由として挙げられる中国の人権問題について、タイの英字紙バンコクポストが1月30日の社説で採り上げた。
外交的ボイコットと選手への警告
コロナ禍で開かれる北京冬季五輪は、さまざまな国際的課題を抱えたまま開幕した。社説は、「人権問題を抱える北京で開かれるということで議論を巻き起こしながら開幕する北京冬季五輪。米国、オーストラリア、英国、さらにデンマークなどの国々が、選手団は送るものの、外交的ボイコットに踏み切り、中国の新疆ウイグル自治区での人権侵害に抗議する姿勢を示している」と、指摘する。
中国が欧米諸国や国連から避難されているのは、イスラム教徒であるウイグル族に対する弾圧だ。社説によれば、国連の人権専門家は、約100万人ものウイグル族が「収容所」に送られている恐れがあると懸念を表明。これに対し中国側は、「再教育センターだ」として反論している。
しかし、中国が、五輪開催における対外的なイメージという側面で、この人権問題に頭を悩まされていることは確かだ。米国、英国、フランスなど西欧諸国は、新疆ウイグル自治区問題について、「人道に対する罪」「大虐殺」という言葉を使って非難しており、中国側は「世紀の大嘘だ」と、強く反発している。
社説は、「対外的なイメージ向上の問題に取り組むため、中国は冬季五輪の期間中の言説を大幅にコントロールしようとしている。この時期、中国当局が、新型コロナの感染拡大阻止の名目でさまざまな手立てを打っていることは、決して驚くべきことではない」として、感染防止策と言論のコントロールが決して無関係ではない実態を紹介した。たとえば、北京冬季オリンピック大会組織委員会の国際関係部局の副責任者を務めるヤン・シュウ氏は、「オリンピック精神に反した行動や発言、特に中国の法律や規制に違反するものは処罰の対象となる」と述べたという。「選手たちは、大会中に人権問題について発言することを警告された」と、社説は指摘する。
コロナ対策を名目に
また社説は、国際人権団体、ヒューマンライツウォッチのミンキー・ワーデン氏が英BBCの取材に答え、「北京オリンピックは、選手たちが世界レベルでの闘いを繰り広げると同時に、自分の身の安全も心配しなければならないという、現代オリンピックでは前例のない状態になっている」と指摘したことも紹介している。
さらに社説は、中国国民と同様に、外国人選手も追跡アプリのダウンロードを義務付けられると報じている。これによって中国政府は、選手たちの個人情報を「新型コロナの感染予防策」という名目で取得することが可能になる。「参加国の中には、個人情報が中国に漏れることを避けるため、滞在中は使い捨ての携帯電話を使うよう選手たちに助言しているところもある。また、カナダのインターネット監視団体は、ダウンロードが求められている中国当局のアプリには欠陥があり、情報漏洩の危険性があると警告している」
さらに北京は、夏と冬、両方のオリンピックの開催を経験する世界で初めての都市にもなる。社説は、「両方を開催することで、中国には特別な国だという自覚が生まれたようだ」と指摘。「2008年夏の北京五輪では、“一つの世界、一つの夢”がスローガンとして掲げられ、中国が世界に開かれていく姿勢が示された」と振り返った上で、「今回の冬季五輪のモットーは“共有する未来へともに”であるにもかかわらず、中国自身が再び内向きになり、万里の長城の内側に隠れてしまいそうだ」と嘆く。
スポーツと政治、あるいは人権問題。中国は、今回のオリンピック以外にも、前副首相による性的暴行を告発した女子テニス選手をめぐる疑惑や、香港、チベットの情勢など、さまざまな人権問題を抱えている。いずれも明確な説明や改善が見られない中で開かれる国際的な「平和の祭典」。国際オリンピック委員会の中国寄りの姿勢と併せ、選手たちの活躍を手放しで楽しむことができないのは、東京オリンピックの時と同じだ。
(原文https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/2255787/pall-hangs-over-chinas-games)