米国Z世代クリエーターがTikTok動画で伝えるメッセージ
爆笑の裏側に隠された人種問題の根深さを読む

  • 2020/9/11

自嘲的に伝える緊張感と複雑さ

 続いて紹介するのは、「カレン」という女性の名前を取り上げた動画だ。米国では近年、カレンが「有色人種の権利を踏みにじる、思いやりのない白人女性」の代名詞のように使わることが増えた。かつて日本で肌の色を表す「くろんぼ」という言葉が差別的だと批判されたのと同様に、米国でも「カレン」という名前は差別を助長するため不適切だという意見が広まっている。しかし男性は、この議論について「白人女性が有色人女性より法外な特権を有していることに変わりはない」「カレンという名前を使わなければ問題が解決するというわけではない」とあざ笑う。笑いの中に人種間の厳しい緊張感が伝わってくる動画だ。

カレンという女性の名前をタブー視することで人種問題に取り組んでいるつもりになってはいけない、と訴える動画 (c) TikTok(https://vt.tiktok.com/ZSPQFmEH/)

 また、下の動画では、黒人男性がまばたきを数回しただけで、「この男が大きなまばたきの音を立てて私の生命を脅かそうとしている」と、警察に通報される様子が描かれる。近年、米国で黒人男性が些細なことで通報され、警察に銃撃される事件が相次いでいることを自嘲的に表現しているのだ。Black Lives Matter(黒人の生命は大切だ)運動のメッセージが底流を貫いている。

黒人男性が些細なことで通報され、警察に銃撃される事件が相次いでいることを自嘲的に表現した動画 (c) TikTok動画(https://vt.tiktok.com/ZSPQ6UJC/

 もっとも、TikTokの人種系動画では、黒人だからといって風刺の対象にならないわけではない。次の動画では、付き合っているボーイフレンドが黒人ではないために黒人の父親に「黒人性を薄めるな」と怒られるというお年頃の女の子が、「図々しい!」と怒りをぶつけている。

「黒人性」にこだわる黒人の父親を軽快かつ痛烈に告発することで、黒人コミュニティーが一枚岩ではないことを伝える動画 (c) TikTok動画(https://vt.tiktok.com/ZSPQHc11/

 ところが、続いて映し出される彼女の両親の写真を見ると、父親は黒人で、母親はアジア系であることが分かる。黒人なのに「黒人性」を薄めたのは父親自身だったというわけだ。ハーフである娘は「最初に薄めたのはお父さんでしょ!」と、鋭く言い放つ。父親は半ば冗談で「黒人性を薄めるな」と娘に言ったようだが、娘のために良かれと思って口出しするパターナリズム的な父親の発言が、黒人男性にしばしば見られる「純血主義」に根差していることを小気味よいテンポで告発するこの動画は、黒人コミュニティーが決して一枚岩ではないことを表している。

 一方、下の動画も人種間の緊張感が日に日に高まっている今日の米国社会が抱える難しさをうまく描いている。「白人なんて大キライだ」と考えている黒人男性の「僕」。すると、次の場面で母親が登場し、「え?私のこと何か言った?」と尋ねるのだ。

白人が嫌いになりたい黒人男性の「僕」。しかし、彼の母親は… (c) TikTok(https://vt.tiktok.com/ZSPQSRs7/

 そう。この黒人青年の母親は白人で、「僕」はハーフだというのがこの動画のオチである。白人のことを嫌いになりたいが、自分の母親も否定することになるため心中は複雑だというストーリーによって、人種問題の複雑さや多面性を表現している。

風刺や皮肉で味付け

 ここで紹介した以外にも、TikTokには斬新で興味深い切り口の動画が数多くアップされている。いずれも米国の人種問題を理解する上で参考になる上、既存の王道メディアが扱いづらい内容に鋭く斬り込み、風刺や皮肉を加えて「味付け」している点が興味深い。下手なネットフリックス動画よりよほど練られている印象すら受ける。

 冒頭の通り、TikTokを巡っては、運営する中国バイトダンス(字節跳動)を通じて利用者の個人情報が中国政府に漏洩する懸念があるとの理由から、トランプ米大統領が米国でサービスを終了するか、米国内のTikTok事業を米国企業に売却するように迫る大統領令を出したり、中国の習近平政権も法令を改正して技術流出を禁じ、対抗措置に出たりと、米中対立のドラマがまだまだ続きそうな気配である。しかし、それはさておき、若くて才能にあふれたクリエーターたちが創出する笑いと、その裏側にある社会問題を読み解く楽しみがもうしばらく続くことを願いたい。

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