【ミャンマー・クーデター現地ルポ3】不服従の祈り続く
国軍が開放の聖地シュエダゴンに人まばら

  • 2021/2/22

 新型コロナウイルス対策として、10カ月にわたり封鎖されていたミャンマー最大都市ヤンゴンのシュエダゴン・パゴダ。2月8日に拝観が許可されたはずのパゴダに参拝する人は少なく、今も敷地を取り囲む柵越しに僧侶や尼僧が読経する姿がある。これはクーデターに対する抵抗なのだ。政権を奪ったミャンマー国軍がシュエダゴンなど宗教施設の使用を解禁したことを「国民を懐柔する欺瞞」と考えて、パゴダの中に入らないことで静かに不服従の意思を示しているのだ。

シュエダゴン・パゴダの敷地の外で祈りを続ける尼僧(2021年2月13日、筆者撮影)

 

国軍系テレビでは軍人が寺を掃除
 2月1日にクーデターを起こしたミャンマー国軍は8日から、シュエダゴンのほか、第二の都市マンダレーのマハムニ・パゴダなど主要な宗教施設の参拝を解禁した。ほぼ同時に国軍系テレビ「ミャワディ」などでは、軍人が僧侶に捧げものをしたり、寺の境内を掃き清める様子が繰り返し放送されるようになった。国軍は、ミャンマー人の主要な宗教である仏教を重んじる姿勢をアピールすることで、国民を懐柔しようとする目的とみられる。
 それに対し国民からは、「そんなに簡単に騙されない」という声があがっている。待ちに待ったシュエダゴンの再開にもかかわらず、訪れる市民はほとんどいない。

開放されても人が少ないシュエダゴン・パゴダ(2月11日、筆者撮影)

 2月中旬、早朝のシュエダゴンの東門を訪れると、数人の僧侶と尼僧が、柵の外から読経を続けていた。10カ月もの閉鎖で中に入れないため敷地の外から読経する姿は恒例のものとなっていたが、国軍によって開放された今でもその様子が続いている。あたかも、国軍のやることは認めないと言わんばかりだ。参道の土産物店などもほとんど開いておらず、まるで再開した事実そのものが無視されているようだった。

座り込んで読経するデモ隊(2月20日ヤンゴン、筆者撮影)

 読経する僧侶の姿を撮影していると、1人の身なりの良い男性が近づいてきた。そして筆者にどこのメディアかと尋ねた後、胸を張ってこう言った。「我々は、シュエダゴン・パゴダに参拝できるようになって大変うれしく思っているんだ。アウンサンスーチー氏は、共産主義者だからパゴダを閉鎖したんだ」
 この男性が何者かはわからなかったが、こうした主張をほかの一般市民から聞いたことはない。こうした人物が、パゴダの周囲を見張っているのが現在のヤンゴンの姿なのだ。

大音響の中の祈り
 祈りは、ミャンマーでは大きな意味を持つ行為だ。上座部仏教の盛んなこの地では、読経して祈りをささげることで功徳を積むことで、よい運気をもたらすことができると信じられている。
 デモ隊と対峙する武装警察と向き合いながら、座り込んで読経を行う人たちもいる。ある飲食店の青年は、クーデター当日にアウンサンスーチー国家顧問が拘束されていることから、「毎晩スーチーさんの安全のために祈っている。あなたも祈ってほしい」と筆者に懇願した。

たらいを叩いて抗議の声をあげる家族(2月5日ヤンゴン、筆者撮影)

 クーデター発生の翌日以降、夜の8時から鍋やたらいを叩いて国軍に抗議する運動も、もともとは水かけ祭りの際などに悪霊を払う行事として行われていたものだ。
 筆者も同じように鍋を叩いてみたのだが、実際にやってみると不思議な心境になる。周り中にこだまする大音響の中で、鍋を叩くという単純な行為をしているからか、様々な思いが去来するのだ。先が見えない不安、クーデターへの怒り、仲間の心配、昔の思い出などなどだ。市民の中には、必死の形相で力の限り叩く人もいる。すでにべこべこになっているたらいをさらに叩く人もいる。何かを振り払おうとしているようにも感じる。

鍋を鳴らす大音響の中祈りをささげる僧侶(2月5日ヤンゴン、筆者撮影)

 ある夜、筆者が金物が打ち鳴らされている間に街を歩いてみると、小さなパゴダで1人祈る僧侶の姿を見つけた。人に見られるつもりはなかっただろう。ただ1人で祈っているだけだった。
 この原稿を書いている2月20日には、マンダレーで治安当局による発砲で多数の市民が被弾し、少なくとも2人が死亡したと伝えられている。この日の鍋を叩く音は、これまでよりも速く、1つ1つが鋭い音であるように感じた。アパートのベランダには、これまでよりも多くのろうそくの灯がともっていた。ミャンマーの人々のこうした祈りの声が、叶うように願わずにはいられない。

 

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