タイで変異株の感染拡大、リスクは「国境」から
移民労働者の手引き者を地元英字紙が厳しく批判

  • 2021/6/17

 バンコクの建設現場で、新型コロナのインド型変異株による感染者が確認された。新型コロナの新たな感染拡大という問題とともに、タイ国内の違法労働者問題が改めて議論されている。5月28日付のタイの英字紙バンコク・ポストは社説でこの問題を採り上げた。

(c) Dan Freeman /Unsplash

半年で1万4,000人が違法入国

 社説によれば、バンコクのラクシー地区にある労働者の住居で5月21日、少なくとも36人が新型コロナのインド型変異株に感染していることが分かった。このうち21人はタイ人、10人がミャンマー人で、5人がカンボジア人だった。彼らと一緒にいた労働者たちも多数感染していたが、この36人以外は変異株ではなかったという。
 その翌日、ナラワティ県の違法移民者の住む場所で、南アフリカ型変異株による感染者が確認された。タイ国内では初めてのケースだった。社説は、「インド型、南アフリカ型ともに、国外からの移民労働者によってタイに持ち込まれた」との見方を示し、「プラユット首相が国境の監視を強化し、違法移民を取り締まるよう指示を出しても、違法移民問題は解決していない」と指摘する。

 社説によれば、毎日のように違法移民が逮捕されており、今年1月1日から5月20日までの間に、1万3956人もの外国人が違法入国で逮捕されたという。そのうち7365人がミャンマー人、5464人がカンボジア人、1089人がラオス人、そして33人がマレーシア人だ。「彼らは氷山の一角に過ぎない。もっと多くの人たちが、違法に入国している」。

違法入国のネットワーク

 サムットサコーン県の知事はこのほど、移民労働者の違法な手引きこそ国境地帯の感染防止を妨げている原因だと指摘し、次のように述べた。「私が不安に思うのは、一部のタイ人がお金と引き換えに違法入国の手引きをしていることだ。彼らはそれがいかに重大な問題をこの国にもたらすかということを理解していない」
 社説は言う。「もちろん、5526キロに及ぶ国境で違法入国者を取り締まることは簡単なことではない。しかし、移民労働者たちが誰の手も借りず国境を違法にくぐり、バンコクの仕事現場まで一人で来ることは不可能だ。そして、不謹慎な役人の手助けがなければ、厳しい新型コロナ対策や監視の目をかいくぐって手引きすることは不可能だ」
 そのうえで社説は、違法入国の一例を紹介している。最近、77人のミャンマー人がカンチャナブリで拘束された。彼らはミャンマー側から4日間にわたってジャングルの中を歩き続け、手引き者によって200キロ離れたサムットプラカーンの仕事現場に連れていかれたという。彼らは手引き者に1万3,000バーツから2万バーツを支払ったという。
 「多くの違法移民労働者が逮捕されているが、そういう時に逮捕されるのは下位の役人ばかりで、この違法入国ネットワークの黒幕の人々に司法の手は及んでいない。2014年5月にクーデターが発生して以来、移民労働者の手引きに関する法律が数多く制定されたが、良い結果はいずれも出ていない」
 社説は、新型コロナの感染防止が非常に難しい局面を迎えた今、防止策の最優先課題は違法入国と人身売買を取り締まることだ、と断言する。「新型コロナとの戦争に勝つためには、政府はまず、違法入国と人身売買の撲滅に勝利しなければならない」
 新型コロナの変異株には、これまで以上の感染力があると言われている。最近では、さらに感染力が強いベトナム型も確認されている。タイ国内の外国人労働者への差別や偏見につながらない形でこうした変異株を分析し、感染経路を究明することは不可欠だ。他方、タイ経済はこうした外国人労働者によって下支えされているのも事実であり、単に国境を封鎖したり、取り締まりを強化したりするだけでは解決しない難しい問題である。

 

(原文:https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/2120483/leaky-border-poses-risk)

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