タリバンのカブール制圧は中国にとって吉か凶か
一対一路戦略はアフガニスタンの権力とイデオロギーの空白を埋めるのか

  • 2021/8/27

チャイナ・マネーの効き目は

 ETIMの問題を抱えていてもなお、中国がアフガニスタンと安定的な関係の維持に努める背景には、地政学的な観点から以下の3つの理由がある。
 第一に、アフガニスタンは中国にとって、ワハン回廊の先端の80キロの国境を接する隣国の一つであること。第二に、習近平政権が米国に対抗しうる中華秩序圏を構成するために2013年に打ち出した一帯一路戦略の中で、新疆ウイグル自治区からアフガニスタン南方の「中国・パキスタン経済回廊」を経由し地中海に至る「中央アジアルート」の重要性が高いこと。そして第三に、アフガニスタンの北側に位置するトルクメニスタンからウズベキスタン、カザフスタンを経由して新疆コルガスまでつながる原油・天然ガスパイプラインは、一帯一路戦略の策定前から稼働しているもので、中国にとって最大かつ最重要の生命線であること、の3点だ。

北京のガスパイプライン (c) ekicousch /Unsplash

 こうした事情を抱える中国が、アフガン情勢の推移を注意深く見守りながら関係を絶やさなかったことについて、「米軍撤退後のタリバン政権ともうまく付き合っていけるのではないか」という見方がある。
 ここで気になるのは、タリバン政権にチャイナ・マネーの鼻薬は「効く」のか、ということだ。イスラム原理主義の学生運動家から生まれたタリバンは、偶像崇拝も娯楽も禁じているストイックな組織だ。パキスタン・タリバン運動が一帯一路プロジェクトに参画している中国企業にテロ攻撃を仕掛けるのも、チャイナ・マネーに毒されたパキスタン政府への攻撃の一環だと見られている。
 中国はアフガニスタンの豊富な地下資源の開発に強い関心を持っているが、もしタリバン政権が世俗化してチャイナ・マネーに篭絡するようなことがあれば、厳格なムジャヒディン(聖戦に参加する戦士)たちから容認されるのか。その意味では、仮にタリバン政権がアフガニスタンを代表する合法政権となったとしても、一帯一路にどんな姿勢を見せるかはまだ不明だ。
 この点について、復旦大学国際問題研究院のロシア・中央アジア研究センターに所属する趙華勝氏は2015年3月、清華大学カーネギーグローバル政策センターのウェブサイトに「中国は米国撤退後にアフガニスタンで権力やイデオロギー的な空白を埋めようとすることはないだろう」と、寄稿している。「アフガニスタンの問題はアフガン人でなければ解決できないという立場から、中国は内政不干渉を貫くだろう」というのが、同氏の見立てだ。

アフガニスタンのパルヴァーン州の男性 (c) Sohaib Ghyasi / Unsplash

 とはいえ、客観的に見れば、米国が膨大な資金とマンパワーを投じてアフガンの安定化に向け奮闘した20年間、それにただ乗りする形であの難しい中央アジア地域で一帯一路政策を進めてきた中国が、米国の撤退後に困難な立場に置かれるのは想像にかたくない。これまで通り一帯一路を進めようとするなら、好むと好まざるとにかかわらず、米国に代わってアフガンと周辺地域の安定のために積極的な役割を担わざるを得なくなるだろう。
 そうなれば、米国としてはさぞ複雑な心持に違いない。「アフガニスタンの安定化がいかに国力を疲弊する力仕事であるか思い知れ」という気持ちの反面、「中国が自分たちにできなかったことをやってのけるのではないか」と恐れる気持ちももちろんあるだろう。
 だが、アフガニスタンは古来より「帝国の墓場」の異名をもち、大帝国が干渉しては滅亡に追い込まれた。古くはマケドニア、モンゴル帝国、近代以降は大英帝国、旧ソ連、そして米国。中国も、自らこの墓碑銘に名を連ねる可能性があると思えば、ほくそ笑んでばかりはいられないかもしれない。
 

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